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こんな話題を語れる農家、いや農業関係者が、日本にどれだけいるのだろうかと考え込んでしまった。そして、完全に日本は負けていると思った。
すでに福岡の市場では国産より韓国産のミニトマトの方が高値を付けることも珍しくなくなっていた。日本の農家は、価格だけではなく品質においても韓国の農家に負けるケースも珍しくはなかったのである。その中でのセーフガード騒ぎだったのだ。
こんな日本の“豊かさの中の敗北主義”はもう止めにしよう。
海外から日本市場に農産物が入ってくるのは日本の市場が高く売れる市場だからだ。しかし、目を転じれば、日本以上に高級な農産物を求める市場がアジアの各地にできつつある。日本農業は、もうそろそろ国境を越える形で村を飛び出すべき時代なのだ。
一方、外食業や量販店などの食に関する企業もまた、一部を除けば海外進出に熱心ではなかった。日本の発明品で世界の流行になっている回転寿司も海外でそれを経営しているのは中国人か韓国人が多いのだそうだ。農業界と同様にそんなリスクを背負わずとも国内に恵まれた市場があったからだ。しかし、そうしている内に、特殊だと言われてきた日本の小売業界に欧米の小売業が進出して着実にその地位を得つつある。
でも、日本の和食は世界の食文化となりつつある。また、“カレーライス”を典型に様々な国に由来するメニューの日本的改良・開発、外食業における様々な業態開発、あるいは惣菜業などの食のサービス開発もある。それはアジアと言わず世界に求められる食文化、食のサービスとして通用するものだろう。また、農業界でも、イチゴや果樹などの海外への種苗流失が日本農業を脅かすと言われてきたが、それを怖れるより、日本の高い技術能力を持つ生産者とともに海外に出て、世界商品を目指す時代なのではないだろうか。
さらに、日本の優れた農業技術や農業経営者と日本の様々なノウハウを持った消費業界とが力を合わせれば、世界の食の市場で大きな役割を果たす存在になるであろう。力のある農業経営者であればこそ、国内の第一農場に加えて海外での農業生産を考える時代がもう始まっているのだ。それが、本誌の語る「メイド・イン・ジャパンからメイド・バイ・ジャパニーズへ」の考え方なのである
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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