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高設イチゴの実用栽培技術

10.要素欠乏エピローグ

高設イチゴ栽培で発生する要素欠乏は、窒素欠乏、カルシウム欠乏、カリウム欠乏の3つがほとんどである。これらは、通常の管理においても様々な原因によって発生する。一方、リン、マグネシウム、鉄、ホウ素などの欠乏が発生することはほとんどない。
X 要素欠乏
水稲の葉色が淡くなっても、窒素追肥で対応することを思い出して欲しい

 高設イチゴ栽培で発生する要素欠乏は、窒素欠乏、カルシウム欠乏、カリウム欠乏の3つがほとんどである。これらは、通常の管理においても様々な原因によって発生する。一方、リン、マグネシウム、鉄、ホウ素などの欠乏が発生することはほとんどない。


【窒素欠乏】

 イチゴの親株床期、育苗期、本圃の頂花房開花期に、成葉の葉脈間の緑色が淡くなり、さらに進行すると葉脈間が白色になる症状が発生することがある。これを鉄欠乏やマグネシウム欠乏と判断して、鉄やマグネシウムの葉面散布で対処しようとするのは誤りである。葉脈間の淡緑色化は、鉄欠乏やマグネシウム欠乏ではなく、窒素欠乏によって発生する。

 窒素欠乏は、以下のような場合に発生する。

・有機質培地を使ったために施肥窒素が有機化してイチゴに吸収されなくなる場合。
・過湿によって根に障害が発生し、養分吸収ができなくなる場合。
・給液窒素濃度が低いか給液量が不足して、イチゴが必要とする窒素量を与えられない場合。
 また、窒素欠乏で数ヶ月経過したイチゴは、葉脈を残して葉縁から葉脈間が赤色化し、やがて全葉が赤紅色になる。ここまで進んだ窒素欠乏を回復させることは困難だが、根が健全であれば、窒素を施用することで新葉は正常に展開する。


【アンモニア態窒素と硝酸態窒素】

 窒素は植物の体内で、タンパク質、核酸、クロロフィル、酵素などの化合物の構成成分として、植物の生命を維持する重要な役割を果たしている。植物は、この窒素を主にアンモニア態窒素や硝酸態窒素などの無機態窒素の形で吸収している。尿素などの有機態窒素は、アンモニア態窒素に分解されてはじめて吸収される。

 アンモニア態窒素は培地に吸着して、必要量が培地溶液に溶出し、低根温で吸収されやすい性質を持つ。一方、硝酸態窒素は培地に吸着されないため、かん水などによって流亡しやすく、低根温で吸収されにくい性質を持つ。

 培地に施用された窒素肥料は、亜硝酸化成菌や硝酸化成菌の作用や加水分解によって形態が変化し、主に硝酸態窒素として植物に吸収される(第1図)。しかし、高設栽培では培地量が多い場合でも、培地中の亜硝酸化成菌や硝酸化成菌の作用が一般土耕栽培に比べると少なくなるため、アンモニア態窒素で与えられた窒素が亜硝酸、硝酸へと変化せず、直接アンモニア態窒素として吸収されることが多い。

 このアンモニア態窒素が培地中に多量に蓄積し過ぎると、アンモニアガスが発生して、カルシウム、カリウム、マグネシウムなどの陽イオンの吸収を阻害する。また、植物がアンモニア態窒素を吸収し過ぎると、窒素過剰による障害が発生する。

 一方、植物が硝酸態窒素の形で窒素を吸収した場合には、根から葉に転流し、硝酸還元酵素と亜硝酸還元酵素の還元作用によってアンモニア態窒素に変化し、グルタミンを経て、グルタミン酸などのアミノ酸を合成する(アンモニア態窒素の形で窒素を吸収した場合には、植物体内での還元作用は行われず、直接グルタミン生成が行われる)。この還元作用には同化産物と適度な温度が必要である。つまり低温であったり、光が不足して同化産物が不足すると、植物体内での硝酸態窒素の還元作用が行われなくなり、窒素過剰による障害が発生する。

 培地中の窒素の形態比率は、培養液中のアンモニア態窒素と硝酸態窒素の比率とほぼ等しくなると考えられるので、培養液中のアンモニア態窒素と硝酸態窒素の比率は、アンモニア態窒素の過剰吸収による障害が発生しない程度の比率にする必要がある。

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