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【農業経営者ルポ「この人この経営」】
土に勝るものなし
- 秋山基
- 第55回 2004年01月01日
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岩下義文さんはこの村でキャベツを生産している。現在の作付面積は約8ha。家族経営ながら、地域では群を抜く機械化と徹底した土作りを続けてきた。
農機類もさることながら、倉庫内で圧倒的に存在感があるのはトラックだろう。車体にギラギラの電飾をあしらい、凝った内装を施したいわゆるデコトラが、10t車を筆頭に3台ある。「交通仁義」「商売繁盛」そして「出世桜は男の華よ」などと書かれた装飾版がひときわ目を引く。
収穫期になると、岩下さんは自慢の愛車にキャベツを満載し、市場へと走らせる。大きさ、味、日持ち、いずれも地元では折り紙付きで、1ケース(10kg)あたりの売値は相場より200~300円は高いのだそうだ。
岩下さんは物心がつくと、父と一緒に市場に出かけた。小学校中学年の時には、すでに小型トラクタを操り、前進とバックを巧みに繰り返して収穫作業を手伝っていた。その頃、時々、青田買いの業者が人夫たちを連れて畑にやって来たのをよく憶えている。
「キャベツを入れた何百という箱が、ソロバンコンベアの上を流れてトラックに積まれていく。その音が心地良かったですね。1日でも早く百姓になりたいって思ったです」
機械いじりも好きで、技術の成績が良かったため、中学3年になると、教師からは工業高校への進学を勧められた。が、岩下さんはこれを断り、卒業と同時に待ちかねたかのように就農した。
「農業をやっていても、機械はいじれますから。よけいな勉強はしたくなかった」
当時、岩下家では、4haほどの畑を持ち、キャベツの他に、ハクサイ、ダイコンも栽培していた。その後、価格や収穫の能率を考慮して、キャベツ一本に絞り、面積を徐々に増やして現在に至っている。
機械化のスタートは早く、父親の義則さん(73歳)は、40年前からトラクタとプラウを使っていた。まだ周辺の農家では耕うん機が当たり前だったため、頼まれれば他人の畑も耕した。トラクタは24馬力から42、50と次第に大型化させ、20年ほど前にはサブソイラを導入した。
岩下さんの機械好きは、そんな父親の影響が大きいが、それだけではない。この波野村は雨量が非常に多い。毎年のように台風に襲われ、いったん降り出せば、1時間に70~80mmという豪雨に見舞われることも珍しくない。
「ハンパじゃないですよ。それこそバケツをひっくり返したような雨が降る。この辺では水害が起きると、大木が立ったまま流されていく。そうなると、キャベツが畑にあること自体が不思議なほどです」
排水効果を期待して、初めてサブソイラの実演機を借りた年、周りの農家からは「変な機械を使いよるなあ」とあきれられた。しかし、その年も雨がよく降り、多くの農家が収量を上げられずに苦しんだ。一方、岩下家のキャベツは出来がよく、品薄で価格が上がったため、収入も増えた。
「それでもうけた金を遊んで使っていたら、今の経営はなかったでしょうね」
なにしろ酒、タバコもパチンコも一切やらず、「機械が道楽」と口をそろえる親子だ。稼いだ分は惜しまず投資し、試作段階だった自動播種機をいち早く購入。“モンスターマシン”と呼ばれたトラクタ「ジョンディア6600」(110馬力)を西日本で最初に買い、すぐに同6300(90馬力)も加えた。
農機類もさることながら、倉庫内で圧倒的に存在感があるのはトラックだろう。車体にギラギラの電飾をあしらい、凝った内装を施したいわゆるデコトラが、10t車を筆頭に3台ある。「交通仁義」「商売繁盛」そして「出世桜は男の華よ」などと書かれた装飾版がひときわ目を引く。
収穫期になると、岩下さんは自慢の愛車にキャベツを満載し、市場へと走らせる。大きさ、味、日持ち、いずれも地元では折り紙付きで、1ケース(10kg)あたりの売値は相場より200~300円は高いのだそうだ。
トラクタを操る小学生
岩下さんは物心がつくと、父と一緒に市場に出かけた。小学校中学年の時には、すでに小型トラクタを操り、前進とバックを巧みに繰り返して収穫作業を手伝っていた。その頃、時々、青田買いの業者が人夫たちを連れて畑にやって来たのをよく憶えている。
「キャベツを入れた何百という箱が、ソロバンコンベアの上を流れてトラックに積まれていく。その音が心地良かったですね。1日でも早く百姓になりたいって思ったです」
機械いじりも好きで、技術の成績が良かったため、中学3年になると、教師からは工業高校への進学を勧められた。が、岩下さんはこれを断り、卒業と同時に待ちかねたかのように就農した。
「農業をやっていても、機械はいじれますから。よけいな勉強はしたくなかった」
当時、岩下家では、4haほどの畑を持ち、キャベツの他に、ハクサイ、ダイコンも栽培していた。その後、価格や収穫の能率を考慮して、キャベツ一本に絞り、面積を徐々に増やして現在に至っている。
機械化のスタートは早く、父親の義則さん(73歳)は、40年前からトラクタとプラウを使っていた。まだ周辺の農家では耕うん機が当たり前だったため、頼まれれば他人の畑も耕した。トラクタは24馬力から42、50と次第に大型化させ、20年ほど前にはサブソイラを導入した。
岩下さんの機械好きは、そんな父親の影響が大きいが、それだけではない。この波野村は雨量が非常に多い。毎年のように台風に襲われ、いったん降り出せば、1時間に70~80mmという豪雨に見舞われることも珍しくない。
「ハンパじゃないですよ。それこそバケツをひっくり返したような雨が降る。この辺では水害が起きると、大木が立ったまま流されていく。そうなると、キャベツが畑にあること自体が不思議なほどです」
排水効果を期待して、初めてサブソイラの実演機を借りた年、周りの農家からは「変な機械を使いよるなあ」とあきれられた。しかし、その年も雨がよく降り、多くの農家が収量を上げられずに苦しんだ。一方、岩下家のキャベツは出来がよく、品薄で価格が上がったため、収入も増えた。
「それでもうけた金を遊んで使っていたら、今の経営はなかったでしょうね」
なにしろ酒、タバコもパチンコも一切やらず、「機械が道楽」と口をそろえる親子だ。稼いだ分は惜しまず投資し、試作段階だった自動播種機をいち早く購入。“モンスターマシン”と呼ばれたトラクタ「ジョンディア6600」(110馬力)を西日本で最初に買い、すぐに同6300(90馬力)も加えた。
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