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オメーらいったい何なのだ、と言いたくなるのは筆者だけではあるまい。
18万頭もの牛のBSE感染が確認されたイギリスと数頭の日本。実際にはもっと多いことは十分に想像できるが、それにしてもイギリスのケースとBSE発生の桁は大きく違う。だから大丈夫などと言うつもりは無い。しかし、リスクの存在を指摘することはジャーナリズムの役目だとしても、18万頭で100人程度の人への感染とは、疫学的に見てどの程度の意味を持つものなのか、それが日本の場合ではどれだけの人への感染リスクがあるのか…。そんなことを牛丼フィーバーを煽るメディアはどれだけ問うてきたのか。
もっとも、「ん、吉野家の牛丼が食えなくなる、それなら食べておこーッ」と考えて行列をつくった人々の存在は、あれほど熱心にメディアが恐怖を煽ったにもかかわらず、人々はその報道を間に受けてはいないという証ではないか。むしろそこに人々の現実感覚が示されていると言うべきなのかもしれない。
本当に単純なのは国民ではなくメディアなのだ。メディアというものがその時代や社会や国民の知的レベルや関心を表現しているのは事実である。でも、すでにメディアの編集者たちが思っているより日本人は成熟した国民になっているのだ。
むしろ、彼らの姿は「売れない。何を売ったらよいのだ」とただの安売りに走っている他の業界人に似て、何を伝えればよいのかを見失い人々に捨てられようとしている存在のようではないか。レベルの低い視聴率獲得・販売競争ゆえに、世の中で起きる現象や事件の表層だけを話題性においてのみ追いかけるTVや新聞には、むしろそれが視聴者や読者を白けさせていると考える想像力はないのだろう。
事件にかかわった企業や風評被害にあっている生産者の商品を棚からは外すだけで自分の責任を回避する姑息な小売業と同様に、話題になることだけを取り上げ、話題にすべきことが何かを考えないメディアだとしたら、それはテレビ屋や新聞屋であってもジャーナリズムの名には値しないだろう。そんな連中に限って風向きを見ながら正義面をして登場してくるのだから、さらに始末が悪い。
もっとも、米国でのBSE、鳥インフルエンザ、吉野家フィーバー等が起きた後に、そろそろ自らの愚かしさに気付いたメディアが、農薬問題を含めて食の安全や人々の安心と言う問題についても少しは冷静に語り始めるのではないかと、密かに筆者は期待している。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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