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木内博一の和のマネジメントと郷の精神

企業文化は「段取り力」から生まれる

 釣りを例に新事業の段取りを考えてみよう。ポジティブ・シンキングで仕事に取り組む経営者はいきなり成功を思い描く。早速「10匹も釣れば家族は喜ぶだろう。料理は何がいいかな?」と夢想するだろう。さらに友達を誘って、釣れる前から「俺の方が大きいのを釣る」「いや、お前には負けられない」とますます盛り上がるかもしれない。そしていざ行ってみると、釣れなかったり、逆に釣れすぎることもある。しかし釣れるという結果は、魚がエサを食べたい状況があって初めて成立する。つまり自分の願望だけではなく、「魚=相手の立場」にならないと実現しないのである。この話を自分に置き換えると、まず誰にも話さず一人でポイントに向かう。そしてどんな魚がどの時間帯にいるのか、どういうエサを好むのか、どんな糸だと警戒心がなくなるのか、どの深さに多く生息しているのかなど、徹底的に行動をリサーチする。目的は「必ず釣れること」なのだから、そこまで持っていく方法を編み出し、そのうえで仲間を誘う。そして必ず自然に釣れるように仕向ける。


企業の懐の深さとは

 自分ひとりで糸を垂らしても釣れる魚の総量は限られているが、自分の段取りによって仲間が釣ってくれれば、喜んでくれるし成果も上がる。そこに利害関係はない。釣ってもらうために自分がどれだけ準備したかも関係ない。結果的に「なんだか分からないけど、おまえと行くと釣れるんだよな」というストーリーになる。これがいい事業戦略である。

 こうした仕事がうまくいく環境を社員に提供すれば、結果が出るから働く意欲が向上する。事業パートナーに対しても同じだ。相手に成果が出るようにすれば、信頼関係が高まる。あとはお互いもっと成長しようと、自然と関係性は深まっていく。

 社員や提携先にとっては、「この会社には理解できない何かがある。でも頑張ればもっとよくなる」という状況は不思議に違いない。しかしこの信頼と安心感こそが企業の懐の深さ、言うなれば企業文化ではないか。単純な利益追求型の会社には、平社員から社長まで考えてることが一緒で「もっと頑張ればもっと釣れるはず」という根性論しかない。経営者はよくても、これでは社員が息切れしてしまい、事業はうまくいかない。経営者本来の仕事は、関係者全員の前向きな努力を許容できる舞台装置を一歩も二歩も先につくること。段取り力は小手先の戦術ではなく、経営者の志の高さと比例する。

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