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新・農業経営者ルポ

都市にいる我われだからこそできる農業からの発信

住民が「千葉都民」と呼ばれるように東京と同じ生活圏を持ち、都市化の進行とともに急速に農地が減りつつある千葉県松戸市。駅から徒歩15分、文字通りの住宅街で体験農園を営む渡辺郁夫氏は、この地で農業を継ぎ、農地を守ることを条件に30歳で婿入りした。都市にいる自分だからこそ果たせる、農家の役割とは一体何なのか。彼は現代の農業後継者としてそれに気付き、使命を自覚し始めている。取材・文/昆吉則  撮影/編集部
 「介護疲れで死ぬことすら考えていた私にとって、ここに毎日通うことが文字通り救いであり、人生を取り戻すきっかけでした」

 農業体験農園「古ヶ崎青空塾」に参加するある婦人が語ったその言葉に渡辺郁夫氏は感激し、そして確信した。この人ひとりのためでも、農業体験農園の仕事を続けていく価値がある、と。

 都市に生きる農家が農家であり続け、農地を守ることを通して、人々に必要とされる存在になっている。しかし、農地に関する法律や制度、あるいは人々の無理解も含めて、それを経営として成り立たせていくことは容易ではない。

 渡辺氏にとって農業体験農園はボランティアではない。大きな儲けを求めるわけではないが、利益を出せなければ続けられない仕事である。経営を行なうことでこそ、仕事としての誇りを実感し、利用者や地域への責任も果たせるのだ。

 今も昔も、農業の基本は食糧生産である。しかし、我われ日本人は、ほんの30~40年前まであった飢えや欠乏の不安から解放された後、農業に対して本来の目的を超えた意味を感じている。

 いまや農業は欠乏を満たすのではなく、むしろ過剰ゆえの社会や心身の病理の中にいる現代人に、熱カロリーでは計れない「心の糧」をもたらす役割を果たすようになっているのである。

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