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土門「辛」聞

お坊ちゃま大臣騒動の裏で、辣腕食糧部長が就任の農水省

 かねて予告の通り、厳しい決着内容となることはいよいよ現実のものとなりつつある。ここで考えてしまうのは、ノリピー大臣で、ホントに交渉は大丈夫なのということだ。

 それはともかくWTO農業交渉に対する現場の無関心はちょっと心配だ。これに関連して導入された品目横断的経営安定対策(略して、品目横断)の補助金の意味をまるで理解していないのだ。それを示す格好のエピソードを紹介しておこう。

 この春、北海道の畑作地帯へ講演に出かけた時のことだ。勧進元は、雑穀の買い付け業者。WTO農業交渉決着近しということで、品目横断の話を、というリクエストが事前にあった。集まった畑作生産者は、70人ぐらいいただろうか。質疑応答で驚いたのは、畑作生産者の羽振りの良さで、品目横断の補助金を「余得」のように受けて止めていたことだ。それで次のように説明してやった。

 「この補助金はね、関税がグッと下がって安い輸入品が入ってきても、農家の生活が成り立つように、所得を補償するものだよ。いまは高関税で守られていても、WTO農業交渉が決着すれば関税はグッと下がるんだよ。そうなれば、それに対抗するために販売価格を下げねばならない。これは余得でも何でもないんだよ」

 そこにいた農家の何人がこの説明を理解してくれただろうか。懇親会で話を聞いていると、余得と思って、機械投資の頭金にした生産者も何人かいた。交渉決着すれば、麦や大豆の場合、200%台の関税率が半分以下になることは確実で、そうなると麦や大豆を売って得る販売収入も半分以下になる。残念ながら、この厳しい現実を理解できている生産者はごく少数なのだ。出入りの肥料業者はこんなことも言っていた。

 「ここは、ベンツで畑回りをする農家が多い。それにスナックやカラオケで農家の悪口は絶対に言えない」

 読者諸兄は、この意味、お分かりだろうか。公共事業不振の地方にあって、羽振りがいいのは補助金で潤う農家ということらしい。とくに品目横断の補助金が出るようになって、農家の懐が潤い、ベンツに乗るぐらい羽振りがよすぎて、夜の町の経済浮上にも大貢献しているのである。悪口が言えぬ理由、おわかりだろうか。夜の町の女のパトロンは、土建屋から補助金タップリ農家にスイッチしたのだ。彼女たちの前でうかつにも農家の悪口を言ったら、それがパトロンの農家にストレートに伝わる恐れがあるというのだ。

 WTO農業交渉のことを正しく理解しているのは、農家ではごく少数ではなかろうか。関税率下がれば、農産物価格も下がり、農地価格も下がっていく。加えて高齢化で離農も増えてくるし、もとより借金農家はこれで完全に息の根が止められることになる。だが真面目にやってきた生産者はチャンスだ。果たして講演会場には、そのチャンスを手にする農家は何人いただろうか。

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