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新・農業経営者ルポ

逆転の発想から、攻めの農業へ

一九九七年のリンゴ価格の大暴落をきっかけに、リンゴの海外輸出をめざした片山寿伸氏。氏は日本と外国では好まれるリンゴのタイプが違うという文化的背景を追い風に、イギリスと中国へのリンゴ輸出を可能にした。この輸出事業を通じて日本で初めてユーレップギャップを取得した氏は、日本の農家を守るために日本版GAPを早期に設立することの必要性を説く。「いずれGAPを取得した中国野菜が日本に流れ込んできたら、私は中国でリンゴつくるしかなくなりますよ」と笑いながら語る片山氏の言葉には冗談とは思えないリアリティがある。
 その夜、片山寿伸氏は書類に埋もれた事務所で一本の電話を待っていた。電話は日本時間の7時から9時の間に来ることになっていた。

 8時を過ぎた頃、電話が鳴り、片山氏が受話器をとった。「どうだった……ああ、それはよかった。こっちの狙いどおりだったなあ、よかった、よかった」ひとしきり津軽弁の会話が続いたのち、電話の向こうの相手にねぎらいの言葉をかけて、片山氏は受話器を置いた。

「スペインに行っているうちのスタッフからの電話です。商談がうまくいきそうなんですよ」と片山氏が言った。「今回持って行った栄黄雅えいこうがというリンゴを、スペインの商社が気に入ってくれたようです。栄黄雅は皮が薄くて、玉が小さい。きっと向こうの好みに合うに違いないと思っていました」 片山氏は現在、自身が経営する「片山りんご有限会社」で作ったリンゴを日本のほか、イギリス、中国へと売りさばいている。今回、新たにスペインでの販路開拓に打って出たのである。

 片山氏がリンゴの海外輸出を手がけるようになったのは1999年からである。発端は1997年の国内のリンゴ価格の暴落だった。国内で売れなければ、海外で売ってやれと、半ばやけくそでスペインにサンプルを送ったのがリンゴの輸出事業のきっかけとなった。以来、商社を介さず、独自のルートでイギリスと中国の販路を切り開いた。日本の農産物を海外に輸出するという日本の農業のイメージをくつがえすその思い切った行動は、国内はもとより、海外メディアからも注目を浴びている。

 さらに片山氏が目下、取り組んでいるのが日本版GAPの確立である。GAPとは消費者に安全な農産物を提供するために生産者が守るべき規範のことである。今後、日本が農産物の輸出拡大を目指すうえで、GAPの導入は避けられない。現在、片山氏はGAP導入に積極的な生産者や食品メーカーなど、40あまりの加盟者からなる日本GAI協会の会長を務めている。

 こうして見てみると、まるで昨今のIT起業家のように、国際社会の動向を読み、時代の先端をひた走っている人のような印象を受ける。だが、実際の片山氏は木訥な津軽弁を操る、素朴な温かみにあふれた人である。その半生もまた、あらかじめ計画を立てて、意志堅固にその実現をめざしてきたようなエリートとは、かなり様相が違う。

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