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新・農業経営者ルポ

土をパートナーに、技術を誇りに

「四十にして惑わず」というが、伊藤栄喜の農業経営は40歳から始まった。水稲から転作受託へと規模を広げ、機械力を駆使して地域の農地を守り続ける。採種圃の管理にプライドを見出し、新技術の実用化にも積極的に取り組む。常に前進し続ける姿勢と、着実さ。その両方を備えた経営者だ。(秋山基)
 「このルポに登場する経営者は“特殊”か“特別”な人たちだよ。俺はね、普通の農家なんだ。有機・無農薬栽培も、際限のない利益追求もしない。人間だから欲はあるけど、ほどほど主義でいいんだ」

 謙遜か、それとも、ある種の自負なのか。伊藤栄喜はそんなふうに自らを語ると、顔中に笑みを広げた。

 岩手県北上市の和賀地区。県内最大の大豆生産地で、伊藤は計約26haを耕作する。2005年の作付けは、大豆14ha、小麦8ha、水稲3.8ha。そのほかに、冬場の換金作物として約6000玉の菌床シイタケを栽培し、小菊も20aで育てている。

 作目の中で、特徴的なのは水稲と大豆の種子(原種)生産だ。県の種苗センターから委託され、コメはあきたこまち(2.8ha)、大豆はナンブシロメとスズカリ(計6.8ha)を栽培する。

 「多収を狙わず、品種特性を生かし、防除を徹底するのが基本原則。種子はデリケートだから、手間ひまがかかる」と、本人は工程管理の大事さを語る。

 収穫した種子は他県にも流通するため、生産者の責任は重い。発芽率90%が絶対条件とされ、異品種の混入は一粒たりとも許されない。また、採種圃には氏名や住所などを記した札を立てる義務があり、栽培過程が近隣の目にさらされる。

 「そこに面白味があるんだよ。買い手はプロの農家だから、ごまかしはきかない。誰にでもできることじゃないからこそ、あえて好んでやっているんだな」

 誇りと気概と、裏付けとしての技術。それらを伊藤が身に付けた道筋をたどるには、決して「普通」ではない、異色の経歴にまで遡る必要がある

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