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新・農業経営者ルポ

ハーブを「必然」にした40年

 「何か手を打てば、それなりに改善はする。だけど長続きしない。しばらく効果が出て数年で戻る。その失敗の連続だった」

 生育状態もさることながら、ハーブは香りを重んじる。本来あるべき香りがなければ商品にならないし、しかも強すぎず、マイルドでなくてはならない。

 農学の発想だけでは限界があると感じ始めた頃、たまたま、ある大学の応用生命科学部に籍を置く研究者に出会った。

 「その教授の話が面白かったな。ナチュラルハーブの香りがなぜ速く消えるか聞いたら、香りの元となる物質の分子構造から説明してくれた」

 ものの見方は一気に変わったと言う。土壌分析では、農学上の微量要素よりも範囲を広げ、すべての金属元素の量を計測するよう改めた。それらのバランスが土全体や作物にどのような影響を与えるか。教授の力を借りながら徹底的に調べた。

 硝酸態窒素の減らし方についても肥料の面から工夫を凝らした。「有機物を入れると、確かに土は元気にはなる。作物も育つけど、硝酸が野菜に残ったら食べる人の身体に悪い。じゃあ、どうすべきかを科学的に考えなくちゃいけない」

 取手市の圃場近くには堆肥盤ハウスが2棟ある。投入するのは出荷調整時に出るロス、食品残さ、雑草、不要となったダンボール。それに養鶏業者から無料で引き取った鶏糞や、卵の殻、時にはニワトリの死骸も加える。さらに近隣の飲食店からは使用済みの天ぷら油をもらい、固めた状態で入れてしまう。

 企業秘密のノウハウがいくつかあるそうだが、これを100日間で4回切り返すと、無臭の堆肥ができる。この状態を「腐植」と霜多は呼ぶ。

 「“堆肥”のレベルではダメなんだ。もっと分解を進め、アンモニア分は極限までゼロに近づけて硝酸値をコントロールする。金属元素のバランスがよくて微生物が旺盛に活動すれば、良い野菜はできるんだよ」

 腐植を使うようになってから、連作障害は出ていない。作るハーブや葉物の種類、圃場条件によって投入量は異なるが、通常は反当たり350リットル。ふるいにかけ、表面積を増やして使うため、重量ではなく体積で測るのもポイントだ。

 霜多の腐植を分けてもらっている経営者の一人に、東海村でサツマイモ・干しイモを生産する(株)照沼勝一商店の社長、照沼勝浩がいる。昨年からイモの圃場に使い始めたところ、土壌消毒をしなくても、出来映えは格段に向上したと言う。

 「霜多さんは土の職人であり、しかも科学的な裏付けを説明できる人だと思う。この世界になかなかそういう人はいない」

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