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新・農業経営者ルポ

マルハナバチに託す部会3代、夢の系譜

 その後も日高地方で巣が見つかった。東大教授らは「セイヨウオオマルハナバチが在来のマルハナバチの巣や餌を奪っている可能性があり、在来種が減っている。在来種と交雑する恐れもある」などと指摘した。

 だが、平取町の農家自身はそのことをちっとも知らなかった。学者たちは学会では問題にし、新聞記事にもなっていたが、営巣したハチが平取町から飛んできた、という根拠はなく、町の名前が新聞記事に出ることはない。学者が平取町の農家に「対策を講じて欲しい」と直接、要望することもなかった。

 当時、農家は使い終わった後の巣箱をハウスの外に放置していた。授粉に精一杯働いたハチの巣には新しい命が宿っている。農家は感謝の気持ちを込め、女王バチや雄バチが巣立つままにしていたのだ。

 最初に事態の深刻さに気付いたのは、99年にトマト・胡瓜部会の2代目会長になった大崎哲也だったという。ハチを売る企業の営業マンから聞かされた大崎はショックを受けた。

 当時、糸屋は大崎を補佐して副部会長を務めており、部会で対策を協議した。ハチを売っていた商社やメーカーはハウスにネットを張ることや、使い終わった後の巣箱の殺虫処分を農家に呼びかけていた。しかし、全国のほかの産地は、まだほとんど応じていなかった。

 しかし、糸屋と大崎には「今後、大きな問題になる」という予感があった。生態学者の一部はセイヨウオオマルハナバチを使用禁止にするように求めていた。そうなれば、ホルモン剤の使用に戻るしかない。

 平取町のトマト農家1戸あたりの栽培面積は、00年には、ホルモン剤を使用していた頃の2倍を超えていた。もしハチを使えなくなれば、栽培面積を半減せざるを得ない。再び農薬の範疇に入るホルモン剤を使うのも、安全な食品を求める消費者への裏切りと思えた。


ネット展張や巣箱処理 外来生物法を先取り

 部会は、ハウスにネットを張ってハチが逃げ出すのを防止することにした。03年6月からは160戸あまりのトマト栽培農家すべてが取り組んだ。使用済みの巣箱も、殺虫剤などで中のハチをすべて殺した後に、農協が回収して処分する仕組みを作った。04年5月には農家と選果場でアルバイトする女性、計150人がハチを捕獲。その後も月1回、農家が捕獲を続けた。

 これらの活動は生態学者にも認められた。大崎は、04年夏の日本生態学会に招かれて発言。「平取町はセイヨウオオマルハナバチによって大きな経済効果が得られ、若い後継者も戻ってきた。若い人が末永く農業を続けられるように、ネットを張ったり巣箱を適正に処分したりして生態系を守る努力をしていく。協力をお願いしたい」という大崎の言葉に、会場の生態学者らから自然に拍手がわき起こった。平取町は、対策のモデルケースとなり始めた。

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