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新・農業経営者ルポ

農家としての価値観。実業家としての夢

 茶に関しては大手飲料メーカーとの提携が決まった。双方とも、高齢社会の到来や消費者のヘルシー志向を見据え、茶に対する需用増を見込んでいるのは明らかだ。

「消費の形態も、食の価値観もまだまだ変わっていきますよ。農業も変わるし、経営も変わらなくてはならない」。インタビューの中で、四位は幾度となく、「変わる」という言葉を口にした。その様子は、まるで己自身に訴えかけるかのようだった。
組織を整え方向性定める将来に対応できる会社へ

 農文協時代、各地の農村や農家を見てきた四位保幸は、集荷事業と生産を両立させていた頃の四位農園に「個選共販」の印象を抱いた。

「実際の農協は信用事業と共済事業で維持されている部分があるわけですから、ものを作って売ることだけで成り立っているこの会社には力を感じた。しかもベースとして協同性みたいなものもある」 借金はしない。良いものを生産し、販売し続ける。共同体を大切にする。そうした農園の姿勢は、自社生産中心にシフトした現在も変わっていないと言う。「本来の農家の精神を堅持しているんだと思いますよ」

 雇用面では、22歳から75歳まで五十数人の従業員を抱えている。うち、現場で働く女性たちが40人前後を占めるが、彼女らはパートタイマーではない。年間通して正社員として働き、当然、社会保険にも加入している。「従業員の家族を合わせれば、150人ぐらいの生活を支える責任が会社にはある。それで経営がダメになりました、では世の中通らない」。社長の片腕である取締役の下沖はそう言って、企業の社会的責務を強調する。

 四位農園は昨年、四位商事の後身である1四位を吸収合併し、集荷事業を起こして以来、並立してきた会社を一つにまとめた。目下の課題は、人員増や新規事業の進展に対応できる組織作りだ。

「会社の方向性を社内のもっと広い範囲が理解できるようにしたい」 53歳になった四位は、経営者として自分が先頭に立つだけでなく、場合によってはトップの誤りを正すぐらいの社員を育てたいと切実に願う。

 弟の保幸も同じ見方だ。「社風、企業ポリシー、人を醸成する教育力でもいい。そういうものを今後1?2年で作り上げていく。その結果次第で、この会社の将来は決まる」

 成長する企業にはDNA(遺伝子の本体)があるという。それには過去の蓄積だけではなく、未来への対応力も含まれる。四位農園の場合、それは「農家の精神」や「企業としての責務」だろうか。あるいは創業以来の「収支」「創造性」「挑戦」。もっと遡れば「価値観に合わないことはしない」という、四位が海外から撤退した時の決意も当てはまるのかもしれない。

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