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新・農業経営者ルポ

酒米育種への挑戦は豊かな人生の証し

宮城県岩沼市で、たった一人で米の品種改良を手がける平塚静隆氏。農業試験場のような設備や資金とも無縁の研究を続ける平塚氏が生み出した「ひより」は、今年3カ所で栽培されることになる。「自分にとっての農業は、やっていて楽しいものでなくては」と言い切る平塚氏。氏の生き方、旺盛な知識欲と純粋な探求心は、農業がやはり夢への挑戦となり得ることを教えてくれる。(田中真知)
 いつもどこか彼方を見つめているような眼差しをした人だ。それが平塚静隆氏に会った時の第一印象だった。「ちょっとお坊さんみたいな風貌をした人」という話は聞いていたが、見かけが僧侶風というよりも、その言葉に、世俗を超えた思索の豊かさとスケールを感じた。

 実は取材前、平塚氏のプロフィールを調べていた段階では、氏が何を目指しているのか、よくわからなかった。宮城県の岩沼でコメ作りや野菜作りのかたわら、独力で酒米の新品種の開発をしたことはわかっても、そこを貫いているものが何かはイメージできなかった。

 本人の作成したホームページ※を見ると、そのタイトルに「リッチになりたい農家」とある。酒米の開発で一攫千金を狙っているのだろうか。それにしては、ページに”商売っ気“がなさ過ぎる。しかも、日本酒やワインについてとても詳しく調べているのに、本人は下戸らしい。ますます、わからない。

 そんな戸惑いを抱いて、宮城県岩沼市に平塚氏を訪ねたのだった。


金を稼ぐことよりもやっていて楽しい農業

平屋作りの平塚宅に入ってまず驚いたのは、本の多さだ。八畳ほどの広さの居間には、コメ作りや酒造りに関する本が、専門書から漫画まで相当そろっている。テーブルにはパソコン、本人愛用のソファの背後のホワイトボードには、大量のアイディア・メモが貼ってある。 まずはともあれ気になっていた「リッチになりたい農家」の真意について訊ねた。あの言葉の意味は?

 「ひとがお金を得るのは豊かになるためですよね。だったら、最初からお金とは関係なく豊かになればいい。だから、『リッチになりたい』というのは、お金をもうけたいということではなくて、自分が精神的に満足を感じられる農業を目指したい、ということなんです。お金はもうからなくても、やっていて楽しい農業をしたい」

 平塚氏は言う――日本の農業システムでは、みなと同じ作物を大量に作って供給し、そこでコストダウンに成功できる人しかもうからない。そんなコスト競争のシステムの中に取り込まれて農業をすることに、いつしか彼は違和感を覚えるようになった。むしろ、自分は農業を金を稼ぐための職業ではなく、「やっていて楽しい」ものとして位置付けようと決めたのだった。

 平塚氏の経営のメインはレタスなどの野菜。しかし、その生き方を実践するには、育種や酒米との出会いが不可欠だった。

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