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新・農業経営者ルポ

酒米育種への挑戦は豊かな人生の証し

 そのモデルとして浮かんだのはワインだった。平塚氏はワインに関する多くの本を読みあさった。そこで以外なことを知る。ヨーロッパのワイン醸造では、ブドウ栽培の段階から人知のおよばない生物が作り出す世界と考えている節があり、品質の善し悪しは気候や風土で決定されるという考えが根強い……。

 酒米、日本酒、ワインへと、平塚氏の思索の地平は広がっていった。


ササシグレに山田錦にかけ合わせる

 研究の一方、平塚氏は酒米にふさわしい性質をもった品種改良に取り組んだ。とは言え、農業試験場のような設備などはない。品種改良は独学で培った知識をもとにした手探り状態での挑戦であった。

 平塚氏が目を付けたのは、父の代から自宅で細々と栽培を続けてきたササシグレだった。ササシグレはササニシキの父親に当たる品種である。味はよいがイモチ病に弱いため、現在ではほとんど栽培されていない。そのササシグレに、酒米としての素質があるのではないかと考えた。

 「ササシグレは食味がよいだけでなく、コシヒカリと違って冷めてもふっくらしていておいしいコメです。しかも、タンパク質が少なく、わずかながら心白が入るという酒米としての特性も持ち合わせている。また、宮城の生んだこの優れた品種をなんとか残したいという気持ちもありました」

 平塚氏は、父親をササシグレに、母親を酒米として有名な山田錦にして、両者をかけ合わせた。山田錦のような優れた酒米としての特性を持ちつつ、東北の気候に合わせて8月25日頃までに穂が出るものを作るのが目標だった。

 所有する圃場90aのうち、1aを品種栽培用に充て、そこで出来たササシグレと山田錦を自宅のビニールハウスで受粉させるという地道な作業を続けた。

 そして99年。9年がかりで、ついに新品種の開発に成功する。平塚氏はこの新品種をひよりと名付けた。穏やかな日よりのように笑顔の美しい女性という思いを込めた。


新品種ひよりがもたらしたリッチな出会い

 ひよりの完成に伴い、地元で売られていた吟醸酒「ごこく波」の原料もひよりに変わり、口当たりもキレも、ぐっとよくなった。

 さらに、新しい出会いももたらされた。ひょんなことで知り合った石巻の農家・太田俊治氏のもとで、2003年からひよりの本格的な栽培が始められたのである。

 また、ひよりのサンプルを見て、ぜひこのコメで純米大吟醸酒を作りたいという蔵人も現れた。宮城の銘酒「伯楽星」「愛宕の松」の醸造元として知られる新澤醸造店の、若き杜氏で同社専務の新澤巌夫氏だった。

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