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新・農業経営者ルポ

酒米育種への挑戦は豊かな人生の証し

 こうして石巻で作られたひよりを原料に、昨年、純米大吟醸「愛宕の松 ひより」が限定生産された。さらりとした口当たりの中にも、しっかりとしたこくのあるこの酒は好評を博し、インターネット上の日本酒好きの間でも高い評価を得ている。

 「ひよりを分析してもらったデータを見ると、吸水性、糖度、タンパク質などさまざまな面で酒米として山田錦を上回るほどの結果が出ています。ただ、あくまでデータなので、ひよりが山田錦より優れているとは言えません。山田錦は、いわば酒米の長嶋茂雄なんです。それに対してひよりは、出てきたばかりの新人みたいなものですからね」

 ひよりの栽培は現在、岩沼の平塚氏の圃場と石巻で行われているが、今年から古川でも栽培が始められる。しかし、品種改良そのものは、とてもビジネスに結び付くものではないという。

「今はコメ作り農家の状況も、日本酒業界もたいへんな時期です。『ごこく波』が一本売れるごとにマージンをという話もあったのですが、そんなことをしても酒の価格が上がるだけなので断りました。それにどうせ値段を付けるなら、安売りしたくないという気持ちもあります。何しろ、ひよりの開発は私が自分の満足度を高めてリッチな気持ちになるためにやってきたのですから」
夢はかなわなくていいもの大きな夢を持つことが大切

 平塚氏には、将来に向けて遠大な夢が二つある。 「一つはひよりに続く新しいコメの品種作りです。酒米ではなく、炊き上がりがふっくらとしていながら、濃い食味が目標です。三年後には結果が出るはずです」

 この新しいコメの名前は「さやか」に決めている。「もう一つは実用品種ではなく、いわば超未来的なコメを考えています。草型育種の極致のようなものです」

 草型育種とは、葉の角度などを品種改良で調整することで、光の利用率を上げ、収量アップにつなげることを目指す育種技術である。

 「いずれにしても、品種改良で大切なのは、穂が出てきた時、その性質を瞬時に判断する能力です。そのためには、文献を読み、いろんなパターンを頭にたたき込んでおく必要がある。後になって『あの穂を捨てなければよかった』とほぞをかんだ経験は数え切れない」

 平塚氏の言う超未来的なコメとは、光の利用率がパーフェクトに近いものというイメージだが、果たして実現可能なのだろうか。

 「これは一生かかっても出来るかどうかわかりません。実はインターネットで調べたら、中国で似たものがすでに完成していたのです。でも微妙に違いがあり、まだ自分にも可能性は残されていると思います」

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