ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

大規模稲作に託す農業・都市共生の夢

千葉県柏市の染谷茂はコメ中心に約60haを経営。さらにこのほど、休耕地120haの営農も手がけることになった。また農家だけで運営する直売所の経営者も務める。首都圏のベッドタウンでは時に無力感を味わい、地域農業の将来を憂えてきた。その一つひとつへの答えとして直売所があり、大規模稲作への挑戦がある。(秋山基)
 千葉県・JR柏駅から北へ車で5分ほど走ると、農産物直売所「かしわで」に着く。300平方メートル弱の店内には同市産の多彩な野菜やコメ。他市町村や県外の農産物も合わせれば、生鮮品だけでも約50種類が並ぶ。

 市内からの商品は朝採り出荷を基本とし、葉物などが売れ残った場合は、各農家が自分で引き取る。鮮度重視の仕組みが受け、休日は午前中から買い物客でにぎわっている。

「店から生産者に何を作れ、売れといった指導はしない。『みんな仲良く』なんて昔の農協みたいなこと言ったらダメで、お互いしのぎを削らないと伸びていかないんだよ」かしわでを運営する(株)アグリプラスの社長、染谷茂は話す。 本業はコメ農家の染谷も、目下、店での売り上げトップの座を仲間の養鶏農家と競っている。安定的に売れる卵に対し、染谷のコメともちは、やや押され気味だ。おまけに、養鶏農家はカステラとマドレーヌも作り始め、その味が客に受けている。

「あのカステラには負けるなあ」からっと笑うと、「うちはこれから赤飯で殴り込みをかける。もち米には自信あるんだ」とうれしそうに続けた。競争を誰よりも楽しんでいるのは、社長本人なのかもしれない。

 かしわでは昨年5月、オープンした。市内の農家15人が計4000万円を出資し、アグリプラスを設立。行政や農協に頼らない直売所経営を目指す。開店に際しては、アグリビジネス投資育成(株)からも同額の出資を受け、ほかに農林漁業金融公庫から1億1600万円を借り入れた。

 なにしろ、駐車場・店舗を合わせて地代だけでも毎月120万円以上かかる。これに対し、売り上げは目標の1日180万円に達しておらず、「まだまだ売る努力が足りない」と、染谷の見方は厳しい。

「だけど、採算さえ取れるようになったら、地域農業の新しい流れが作れる。たとえば5億売れれば、柏市内でそのお金が回ることになるし、消費地での農業のあり方を示せる」

 農家だけで運営する直売所にかけたのは、30年間の農業人生を結実させたいという思いでもある。

関連記事

powered by weblio