ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

新・農業経営者ルポ

トンボが守りホタルが証明する高品質

 減収分は、45haすべてを減反せずにコメを作付け、全量自社で直販することでカバーというのが、内田氏の戦略だ。ただし、「これは米屋さんの分野に踏み込むこと。ならば当然、通常の米屋さん以上の設備と知識を持たなければ勝てない」(同)。

 内田農産の場合、93年に精米プラントを導入し、その際、色彩選別機も導入している。99年にはガラス選別機も導入した。「カメムシが吸ったコメを出さないために殺虫剤を撒くのではなく、トンボにカメムシを捕まえさせて、それでも吸われたコメの粒は機械で取り除く」という内田氏流の考え方が現れた投資だ。

 内田農産のコメ「内農米」の顧客は全国の消費者がメインで、他に弁当店、ホテルなどにも販売している。一般の消費者向けの15年産コシヒカリの価格は10kg6500円。顧客は、首都圏、関西圏を始め全国に口コミで増え、現在の顧客登録数は数千件を数える。うち約1000件前後は常時注文のある得意客だという。

 顧客へは、ホタルを観る会の案内や、バーベキューなどの交流会の誘いを送る。「お客さんにうちの田んぼを見てもらいたい」(同)ためだ。

 内田氏は、昨今話題になっているトレーサビリティは不完全――最後の大切な部分が欠けている、と感じている。「書類で、栽培履歴や農薬の種類や使用量がわかっても、ではそれで品質はいいのか、安全なのか、環境にいいのか――そういったことは何も伝えてくれない」(同)。

 顧客がその農産物に「買うに値する価値」を見出すには、書類の他に、誰もが直感的に理解でき、しかも確実な判断材料が必要だと考える。

 内田農産の場合のそれは、トンボやホタルといった生きた証人たちだ。病虫害に強い生産法を選んだことで、顧客から信用を得るための証人も得ているのだ。

(齋藤訓之)

関連記事

powered by weblio