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新・農業経営者ルポ

「誘惑を牽制する」という名の健全経営

農業生産組織として日本ではじめて株式公開した(株)秋川牧園。同社を率いる秋川実氏は、幼い頃に父が追い求めた理想の農業を自らも志し、一養鶏業者からスタートしてから32年。自社生産・製造した食品を宅配するサービスは、山口を起点に大阪まで拠点を拡げ、全国展開を視野に入れる。彼の経営哲学は、農業は生産業ではなく消費者のための「健康な食べ物づくり」業。その使命を果たすためにはパートを含む全社員・契約生産者が株主となり経営参加してリスクと責任を負わなければならないと説く。
株主配当を継続しつづける農業生産組織

 山口駅から車で15分。田んぼと林が混在する農村地帯を抜けると突如、風見鶏と時計台が目につくトンガリ屋根の建物がみえてくる。秋川実氏が経営する(株)秋川牧園の本社事務所だ。5万平方メートルの敷地に、鶏卵工場、鶏肉・食肉のカット工場、冷凍食品工場、ピッキング・出荷センター、食品試験室、試験鶏舎がひろがる。小高い丘に牧場があり、そこでは牛の飼育場とならんで、牛乳工場がある。

 秋川氏は、農業の生産現場から株式公開を果たした日本初の農業経営者である。

 「我が社は、農林水産業に分類されており、幸いにも新聞の株式面でいつも一番始めのところに載っております」日経新聞のジャスダック(註)株価欄をみると、たしかに水産・農林部門から掲載がはじまり、すぐに「秋川牧園」の名がでている。載っているのは、ジャスダック上場順にカネコ種苗、秋川牧園、アクシーズの3社のみだ。

 (註)日本証券業協会が運営する店頭公開株式マーケット。新興企業株を対象


事業内容は「食べ物づくり」

 新聞の株面では「秋川牧園は水産・農林」の欄に載っているが、経営の実態を事業内容ごとで見ると、従来の畜産業の枠を完全に越えている。

 食品製造販売をする食品産業から、精肉小売販売を行う内食産業、直売所を運営する小売業、自社商品を家庭まで届ける食品宅配業、契約生産者に独自開発した飼料や肥料を販売する資材販売業まで、「食」を中心とした広い範囲に及んでいる。

 それら事業を総称して、秋川氏は「食べ物づくり」と呼ぶ。

 売上高40億900万円(2003年3月期連結決算)、経常利益1億3400万円(単体)の(株)秋川牧園と連結子会社3社を率いる。

 連結に含まれていない飼料等の売上を含めれば、売上高は70億円に迫る勢いだ。97年の公開前から、株主には10年以上20円の配当を実現。公開価格の600円の株価で、3.33%の配当利回りとなっている。

 今期の配当の見通しを聞くと、「今後も1株20円配当を継続していきます」と、力を込めた。


鶏インフルエンザが起こっても株価が上昇

 「農業は夢のある幸せな産業。ここ山口で農業の技術集積を行い、農業シリコンバレーを目指す」と宣言した97年の上場から7年。秋川氏の言動に注視してきたのは、農業界ではなく、証券会社や一般投資家、そして一般消費者だった。食への信頼が揺らげば揺らぐほど、「牛乳や卵や肉や野菜を生産する産直組織」として上場した秋川牧園への期待やブランド力は高まる。それを示すのは、今年2月隣町の阿東町で鶏インフルエンザ感染が起こった後も上昇していった株価の動きだ。

 しかし、いくら「食の安心・安全」トレンドという追い風があるとしても、顧客満足を実現し、利益を出し続けるまでの道は平坦ではあるまい。1億3400万円利益の根源とは何なのか。

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