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新・農業経営者ルポ

稲の根が土を抱くように、深く顧客と通ず


農業の背景を語れば、顧客は頭でも食べてくれる

翌94年、阿部家では善朗さん分の農協出荷を取り止め、親子で有機栽培したコメをすべて直販することになった。ところがこの年は一転して大豊作だった。800件の見込み客のうち、約半数は、新米を食べもせずにキャンセルした。手のひらを返したような反応に一家は途方に暮れる。「作ったから買ってくれではダメだった。消費者が欲しいのは『今すぐ』であり、きちんとした契約の形をとらないとうまくいかないのだと気づきました」 阿部さんは、東北各地で成功している有機生産者を訪ね歩き、有機栽培に対する考え方を改めた。「農薬を使わず、肥料を換えるのが有機ではないんです。種籾を厳選し、早生から晩生まで収穫期を分散させて、冷害にも耐えられる生産態勢を組む。売り方でも知恵を絞る。これらを怠ったら、有機農業は成り立たないんですよ」 販売方法については、受注生産システムに切り換えた。予約客には月ごとに必要なコメの品種と量、発送時期を収穫の前年に指定してもらい、それらの数字を基に作付け計画を立てる。飛び込みの客には、まなむすめ、こころまち、ひとめぼれ、ササニシキ、ササニシキBLの5品種を1kgずつ別詰めした「お試しセット」を最初に送り、まず好みのコメを選んでもらう。契約後は、贈答品向けなどにとっておいた在庫を当てれば、見込み生産はしなくてもすむ。

 作業面でも模索と実験を繰り返した。現在は、秋口に、米ヌカと乳酸菌を配合したボカシを反当たり50kgまき、籾殻、稲ワラとともに1度ロータリをかけて混和した後、プラウで15cm起こしている。冬の間にはサブソイラをかけ、栽培中、深水にしても根腐れが生じないよう適正な減水深を維持する。

 種籾は播種前に、2・3mmの網で再選別し、さらに通常より高濃度で塩水選する。田植えと同時に、ペレットにした米ヌカを再び反50kgまき、初期の雑草を封じるとともに、微生物の生育を促す。あとは、イネが栄養成長から生殖成長に切り替わる6月20日前後、グアノ(天然有機リン酸肥料)を追肥するぐらいだ。

「有機」をうたい文句にした特殊な資材に頼ったりはしない。 目指しているのは、藻類や微生物だけでなく、昆虫、魚類から鳥類まで含めた生物層が豊かな水田だと言う。

「物質循環の一部分、本来微生物が携わっている部分に化学物質が関与したら、食物連鎖が途切れ、循環が小さくなってしまう。特定の虫を農薬で防除しようとすれば、別の何かが爆発的に増えることだってあるでしょう」

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