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新・農業経営者ルポ

稲の根が土を抱くように、深く顧客と通ず

 極端な方法かもしれないが、例えば毎年行う畦塗り作業でも、阿部さんはあえて最新機械を使わない。トラクタの上で、居眠りしてしまうほどのスピードでなければ、「地グモが逃げられないから」だと言う。イナゴやカメムシを食べてくれる地グモを残せば、コメを守ることにつながる。本来の技術とは、小学生にも理解できる言葉で語れるはずだという思いが、考え方の根本にある。

 契約客は増加を続け、今年は個人だけでも2300件となった。そのすべてに対し、阿部さんは商品同封の通信「らいすとぴあ」を送り、顧客との距離を縮めるように心がけている。生産現場は常に公開できる状態とし、消費者や地元小学生の農業体験も受け入れる。

「当たり前のことをすれば、お客さんは付いてきてくれるし、こっちが農業の背景を語れば、口だけでなく、頭でもコメを食べてくれる。ありがたいことですよ」
一番うまかったのは、インディカの高級品種だった

 あの93年の夏、阿部さんの水田を「アサヒグラフ」のカメラマンが取材に訪れ、写真に撮った。その写真は冷夏を象徴する1枚として、「朝日年鑑」にも掲載され、図らずも後世に残ってしまった。

「なんとも、口惜しかったですけどね」と阿部さんは笑いながら、当時を思い起こす。「でもそれが私にとってのスタートです。いきなり100年に1度という大冷害に出くわしたのは、かえってよかったのかもしれません。あれで開き直れたし、原点から再出発しやすかったから」 板倉農産では、収穫したコメを籾の状態で貯蔵し、発送時に精米する。この方法で、新米とほぼ変らない食味を1年間維持できるが、さらに精米後には品質判定機と食味分析計にかけ、出荷日ごとにデータを蓄積。消費者からのクレームに備えている。

 商品がおいしければ、客は何も言ってこない。まずければ2度と買わない。これが産直の厳しさだ。「だからうちは口に入る直前まで責任をもつ。それでもクレームが来たら、待ってましたですよ」

 サービス産業でよく語られる話だが、クレームとは多くの顧客が感じている不満が表面化した氷山の一角である場合が多い。たった1つのクレームであっても、きちんと受け止め、解決することにより、顧客満足度が大きく向上する可能性がある。

「相手の言い分をトコトンまで聞くことで、自分たちが気付いていない問題点を教えてもらえるのです」と阿部さんは話す。 クレームではないが、大阪府の米穀店との間で直販の取引が決まった際、こんな話を聞かされたという。「阿部さんのコメにはコクがない」

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