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【江刺の稲】
国内向けに語られるニッポン農産物輸出
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第145回 2008年05月01日
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旅の目的は視察とともに営業である。メインイベントは、同地のホテル「バージュ・アル・アラブ」の料理長に対する読者農産物のプレゼン。同ホテルは、あの神田うのが新婚旅行で滞在した世界で唯一の7つ星ホテル。持ち込んだのは、ツアー参加者以外の読者の産品も含めてイチゴ、ナシ、ダイコン、小豆、白桃ジュースなどなど。シェフたちは大いに興味を示し、予定時間を大幅に延長する試食会になった。
ほかにも海外マーケット向け卸、ドバイの国内青果卸、アラブレストラン、スーパーマーケット「スピニーズ」などにも営業してみた。訪問したどこでも食材に対する評価は極めて高く、見積もり依頼を受けた。
ところで、今回の旅行で特に報告しておきたいことがある。
訪問したUAE国内に30数店舗を展開するスーパーであるスピニーズには「日本コーナー」がある。農水省がスーパーの棚を買い、日本産果実や野菜を置いているのだ。農水省ではドバイだけでなく世界の9カ国でこうしたコーナーを設けている。
しかし、日本コーナーの責任者でもある同社チーフバイヤーの言葉には、日本のお役所マーケティングに対する冷笑を感じた。
「棚の代金は既にもらっており、売れた分だけ精算すればよい。だから、掛け率は通常よりかなり高い。品質の高さは理解しているので、ここまで出向いてくるようなあなた方なら、ぜひ本気のビジネスとして提案してほしい」と話していた。さらに、参加者の一人が持ち込んだ小豆に対しても在住日本人向けに面白い商材だと膝を叩いていた。
彼の話を聞きながら、政治家や農水省が語る輸出促進事業とは、政治家と役人たちの日本国内向けの広報活動のように思えてきた。
ビジネスの視点から見るなら、日本コーナーとは、日本の農民や在留日本人がその品質の高さを自己満足するためのもののようにも思えた。高品質を印象付けたい気持ちはわかるが、1個3000円のナシでは、現地の人々に値段の高さだけが印象付けられてしまうのでないか。それはおよそマーケティングとはいえず、逆効果にすらなりかねない。TVや新聞などは海外で日本農産物が高く売れていると報道するが、どの程度売れているのかは伝えられない。
農業団体や農業経営者は、役人任せにせず自分自身で本気の海外マーケティングに取り組むべきだ。そして、日本からの輸出である限り、その事業規模は限定的なものだと思う。Made in JapanではなくMadeby Japaneseで日本の野菜類や果実の海外生産に取り組む時代なのだ。
今後、海外での日本食ブームはますます広がる。気象条件に恵またスペインなどで日本イチゴや野菜類を栽培し、EU各国に販売することなど、それほど困難ではあるまい。マドリードからロンドンまでは空路で一時間程度だ。福岡から東京より近いのだ。ウインブルドンのテニストーナメントで、シャラポワや観客に日本イチゴを食べさせるなんてことも夢ではない。今度は、それをテーマにしたヨーロッパツアーを企画しようと思う。
ほかにも海外マーケット向け卸、ドバイの国内青果卸、アラブレストラン、スーパーマーケット「スピニーズ」などにも営業してみた。訪問したどこでも食材に対する評価は極めて高く、見積もり依頼を受けた。
ところで、今回の旅行で特に報告しておきたいことがある。
訪問したUAE国内に30数店舗を展開するスーパーであるスピニーズには「日本コーナー」がある。農水省がスーパーの棚を買い、日本産果実や野菜を置いているのだ。農水省ではドバイだけでなく世界の9カ国でこうしたコーナーを設けている。
しかし、日本コーナーの責任者でもある同社チーフバイヤーの言葉には、日本のお役所マーケティングに対する冷笑を感じた。
「棚の代金は既にもらっており、売れた分だけ精算すればよい。だから、掛け率は通常よりかなり高い。品質の高さは理解しているので、ここまで出向いてくるようなあなた方なら、ぜひ本気のビジネスとして提案してほしい」と話していた。さらに、参加者の一人が持ち込んだ小豆に対しても在住日本人向けに面白い商材だと膝を叩いていた。
彼の話を聞きながら、政治家や農水省が語る輸出促進事業とは、政治家と役人たちの日本国内向けの広報活動のように思えてきた。
ビジネスの視点から見るなら、日本コーナーとは、日本の農民や在留日本人がその品質の高さを自己満足するためのもののようにも思えた。高品質を印象付けたい気持ちはわかるが、1個3000円のナシでは、現地の人々に値段の高さだけが印象付けられてしまうのでないか。それはおよそマーケティングとはいえず、逆効果にすらなりかねない。TVや新聞などは海外で日本農産物が高く売れていると報道するが、どの程度売れているのかは伝えられない。
農業団体や農業経営者は、役人任せにせず自分自身で本気の海外マーケティングに取り組むべきだ。そして、日本からの輸出である限り、その事業規模は限定的なものだと思う。Made in JapanではなくMadeby Japaneseで日本の野菜類や果実の海外生産に取り組む時代なのだ。
今後、海外での日本食ブームはますます広がる。気象条件に恵またスペインなどで日本イチゴや野菜類を栽培し、EU各国に販売することなど、それほど困難ではあるまい。マドリードからロンドンまでは空路で一時間程度だ。福岡から東京より近いのだ。ウインブルドンのテニストーナメントで、シャラポワや観客に日本イチゴを食べさせるなんてことも夢ではない。今度は、それをテーマにしたヨーロッパツアーを企画しようと思う。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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