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特集

事業計画書は夢を伝える手段!

投資家が投資を決める瞬間
農業経営者よ、覚悟はあるか?

 私はA-1グランプリに審査委員として参加させていただいた。投資家という立場から、今回のイベントの感想および投資家が投資を決定する際に何を重要視しているかについて、あくまで私の主観ではあるが、お話したいと思う。

 当社は投資会社であるが、売上数億円程度といった、創業して日が浅く、事業規模も小さい企業を中心的に資金を投入する業務を行なっている。毎年30%以上利益を上げていくような成長企業が多い。もちろん、その数字を農業分野で実現・維持していくことは、かなり難しい面があるのは否めない。そのようなこともあり、私が今回の審査において、より重要視したのが出場者の資質であった。それも、単に経営者としての資質というよりは、ゼロから事業を立ち上げる、いわば起業家としての資質である。

 一般的に、制約や困難があろうとも自分はこの事業を実現していくという強い覚悟を持っている起業家でなければ、投資家は投資したいと思わない。

 起業家たるものは、伝道者でなければならない。社員や顧客、あるいは支援者に常に理想郷を語りかけ、共感や納得をさせるだけのパワーを備えていることが求められる。

 まして農業分野での起業家には、より大きなパワーが求められるのではないか。事業を拡大展開しようとすればするほど、農地の問題をはじめとする、様々な制約や障壁にぶつかる。将来的な方向性を示さない農政に振り回されることも多い。しかし、困難に立ち向かい突き破っていくことでしか、農業を産業化することはできない。

「自らの事業で農業界を変えていこう」という起業家パワーを最も感じさせてくれたのは、国立ファーム(有)・高橋がなり氏のプレゼンテーションだった。主張が明確かつ説得力があり、うまく歯車がまわるようになれば事業が飛躍的に成長するのではないかと思わせた。また高橋氏以外にも、今回奨励賞を受賞し、これから当社が投資を始めようと考えている(株)農業総合研究所・及川智正氏など、出場した農業経営者の多くは起業家としての素質を持っていた。

 こんなふうに言うと、投資家に対してある種の反発を覚える方がいるかもしれない。だが、投資する私たち投資家も、また経営者に試される立場である。投資家は身の丈に合った経営者としか付き合えない。いい意味でも悪い意味でも、経営者のレベルが投資家の理解能力を超越してしまえば、投資することも、またない。

 今後、農業が産業化していくにつれ、投資家から投資を受ける農業経営者が増えるであろう。その際失敗を避けるために、ひとつ知っておいてほしいのが、投資家には2種類あることである。企業を社会の公器ととらえ芽が出るのを応援するタイプと、タニマチ的に投資はするけれどいろいろと口うるさいタイプがある。私は投資を結婚にたとえているのだが、結婚相手を尊重し死ぬまで添い遂げようとする者が前者とすれば、金の力で服従させようとするのが後者。また、離婚となると、いざこざが待ち受けている。通常の取引同様、自分にふさわしい相手なのかどうか、見極める能力を持つことが肝要になろう。(談)


■佐々木美樹(ささき・みき)
JAICシードキャピタル(株) 代表取締役社長
1951年和歌山県生まれ。76年京都大学大学院修了(システム工学)。日立製作所等を経た後、90年から日本アジア投資㈱にて審査、投資、コンサルティング、新規事業を担当する。96年取締役就任。2008年同社の東証一部上場を機に専務取締役で退任し、現職。

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