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【江刺の稲】
若者は消費者視点で農業を目指す
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第157回 2009年05月01日
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不景気のせいばかりでなく、数年前から農業をやりたいと相談にくる学生が増えている。その矛先はわが社にも及び、入社を希望してくる若い社会人や学生がいる。3月からわが社に入社した北川奈津子もそんなひとりだ。佐賀県の農家の長女で山口大学を卒業し、先月まで立派な会社に勤めていた。にもかかわらず、わが社へ転職してしまった。世間一般の常識から見れば、後先を考えぬ娘だと言われるかもしれない。
きっかけは、A-1グランプリにも出てくれたみやじ豚の宮治勇輔さんが主催する「農家のこせがれネットワーク」だったようだ。宮治さんの呼びかけで集まった農家出身の同世代人と友達になり、彼女の潜在意識に火がついてしまったらしい。同時に、本誌のホームページを見て購読を始めた。読者セミナーにも毎回顔を出すようになった。セミナーは無料だが、有料の懇親会やその二次会にも参加する。気の毒に思い、二次会分は僕がおごってあげた。すると、ちゃっかり僕の横に座り、自分を会社に入れてくれ、いや、会社に入れるべきだと迫った。
「私には弟が二人います。でも、私が婿さんをゲットして佐賀に戻るのです。だから、そのための勉強をさせてください。新しい農業を支援することを標榜する貴方は私を採用するべきだと思います」
若干の脚色はあるが、概ねそんなことを言って僕に入社を認めさせてしまった。山形県鶴岡市で開かれた読者の集まりに参加し、一部の読者の前でデビューした。
「お前、ここで『アグリズム』を売らないと、帰りの飛行機の切符はキャンセルするからな。歩いて帰れよ」という脅しが効いたのか、宴会の席ばかりでなく、雪の中を読者と一緒に浴衣姿でラーメン屋にまで付いて回り、とりあえず飛行機で帰ることはできたようだ。ともかくも、生来の憎めない厚かましさと明るさで皆様に可愛がっていただけたようだ。仕事の能力はまだわからないが、農家育ちの娘らしく、エンドレスの農家の宴会には耐えられるようだ。読者の皆様、北川をよろしく。
閑話休題。農業を目指す若者が増えているだけでなく、世の中もその変化に気付き始めた。前号で紹介した、農業をテーマにした青年誌『アグリズム』へのメディアの反応は相変わらずだ。
先日のA-1グランプリも非農家を含めて若い人々の応募が多く、NHKが首都圏ネットワークという報道番組で〝農業を目指す若者たち"という切り口で紹介していた。また、宮治さんの「農家のこせがれネットワーク」に対しても、メディアの取材が殺到しているようだ。
北川を含めてそこに集まる農家、非農家出身の若者たちを見て思うことがある。彼らは、農家の子供だからでもサラリーマンの子供だからでもなく、現代の若者だから農業を「面白い」と思えるのだ。
農業関係者は、農業が儲からないから後継者がいないと言う。それに対して僕は、農家の子供が農業を継がないのは、農家や農業関係者の被害者意識の強さや、誇りのなさゆえだと言ってきた。その姿を見せつけられて育つ子供が農業に誇りを持てるわけがないと。
でも、一度は都会の消費者としての暮らしを体験すればこそ、農家の子弟たちも農業界の洗脳から解放されるのである。生産者基点ではなく消費者基点に立ってこそ、農業の未来が見えてくるのだ。
「私には弟が二人います。でも、私が婿さんをゲットして佐賀に戻るのです。だから、そのための勉強をさせてください。新しい農業を支援することを標榜する貴方は私を採用するべきだと思います」
若干の脚色はあるが、概ねそんなことを言って僕に入社を認めさせてしまった。山形県鶴岡市で開かれた読者の集まりに参加し、一部の読者の前でデビューした。
「お前、ここで『アグリズム』を売らないと、帰りの飛行機の切符はキャンセルするからな。歩いて帰れよ」という脅しが効いたのか、宴会の席ばかりでなく、雪の中を読者と一緒に浴衣姿でラーメン屋にまで付いて回り、とりあえず飛行機で帰ることはできたようだ。ともかくも、生来の憎めない厚かましさと明るさで皆様に可愛がっていただけたようだ。仕事の能力はまだわからないが、農家育ちの娘らしく、エンドレスの農家の宴会には耐えられるようだ。読者の皆様、北川をよろしく。
閑話休題。農業を目指す若者が増えているだけでなく、世の中もその変化に気付き始めた。前号で紹介した、農業をテーマにした青年誌『アグリズム』へのメディアの反応は相変わらずだ。
先日のA-1グランプリも非農家を含めて若い人々の応募が多く、NHKが首都圏ネットワークという報道番組で〝農業を目指す若者たち"という切り口で紹介していた。また、宮治さんの「農家のこせがれネットワーク」に対しても、メディアの取材が殺到しているようだ。
北川を含めてそこに集まる農家、非農家出身の若者たちを見て思うことがある。彼らは、農家の子供だからでもサラリーマンの子供だからでもなく、現代の若者だから農業を「面白い」と思えるのだ。
農業関係者は、農業が儲からないから後継者がいないと言う。それに対して僕は、農家の子供が農業を継がないのは、農家や農業関係者の被害者意識の強さや、誇りのなさゆえだと言ってきた。その姿を見せつけられて育つ子供が農業に誇りを持てるわけがないと。
でも、一度は都会の消費者としての暮らしを体験すればこそ、農家の子弟たちも農業界の洗脳から解放されるのである。生産者基点ではなく消費者基点に立ってこそ、農業の未来が見えてくるのだ。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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