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あらゆる工程でイノベーションを意識する
では、和郷園は本当に自律できているのだろうか。
10年ほど前、こんなことがあった。和郷園には作物ごとに生産部会があり、その中のキュウリ部会がある取引先から代金を回収できず、3000万円ほど焦げついたのだ。営業から生産、出荷、回収まで、各部会が責任を持っている。組合員から報告を受けて、何が起こったかは分かった。「なんでこんなことになったんだ」と怒りをぶつけることはしない。それよりも問題の本質は「そうなることを想定していたか」だった。和郷園は農家の手取りを増やし、経営をよくして自律しようと自主的に集まって、生まれた団体である。それなのに事前策はおろか事後策もなければ、自律どころではない。部会だけの問題ではなくなった。全組合員を集めて、「とっとと解散したほうがいい」と発した。
結局、解決案は出なかった。だが、この出来事によって組合員は、自律するには日々畑で取り組む生産と同じぐらい回収にもイノベーションが必要という強い共有認識を持った。当事者は、同じ過ちを絶対に繰り返さない行動を起こすと述べた。ならばと、銀行から3000万円を借りて全額支払った。
自律を支えるシステムづくり
対策のひとつとして、和郷園の中にこの教訓を生かした機能を作ることにした。出荷金額の2%を一様に徴収し、積み立てる仕組みだ。仮に1カ月に1億円の取引があるとして、積立金は月200万円。1年で2400万円、10年で2億4000万円になる。与信管理も併せて強化していった結果、貸し倒れ対策の適正金額以上の蓄積ができるまでになった。もとはといえば、組合員の農業投資に対する対価の一部である。余剰金を個々の組合員農場に還付するか。それとも和郷園メンバー全体にとって、新しい将来価値を生み出す事業に投資していくか。組合員が下した判断は、後者であった。
現在、立ち上げ準備中の観光事業も、元手のほとんどは積立金からだ。
農業は製造業として、自分で作って売るところまでで終わっては半人前だ。回収と投資判断というシステムが実体として伴ったとき、初めて「自律」を謳えるのではないだろうか。「続けられる」ことは容易ではない。
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木内博一 キウチヒロカズ
(有)和郷、生産組合(農)和郷園
代表理事
1967年千葉県生まれ。農業者大学校卒業後、90年に就農。96年事業会社(有)和郷を、98年生産組合(株)和郷園を設立。生産・流通事業のほか、リサイクル事業や冷凍工場、カット・パッキングセンター、直営店舗の展開をすすめる。05年海外事業部を立ち上げ、タイでマンゴー、バナナの生産開始。07年日本から香港への輸出事業スタート。現在、ターゲット国を拡大準備中。起業わずか15年でグループ売上約50億円の農系企業を築き上げた木内氏の「和のマネジメントと郷の精神」。『農業経営者』での連載で、その“事業ビジョンの本質”を初めて明かす。
木内博一の和のマネジメントと郷の精神
起業わずか15年でグループ売上約50億円の農業ビジネスを築き上げた“農業界の革命児”木内博一。攻めの一手を極める氏の経営戦略と思考プロセスを毎月、明かしていく。
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