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坂上隆の幸せを見える化する農業ビジネス

経営者の強い味方「経営指針書」

前回、社員の器を大きくする考え方について述べた。しかし、スタッフの育成や雇用を守ることを経営の中心に据えてしまっては事業はうまくいかない。とくにお客様のことより社員の言動に重きを置いてしまう状況は危うい。
 農業にかぎらず、あらゆる事業はお客様が買ってくださってはじめて成立でき、存続できる。お客様はそれほどありがたい存在だ。換言すれば、100%顧客に依存している。

 にもかかわらず、組織をゼロから作っていく段階で経営者は、遠くにいる顧客より、身近にいる社員に影響を受けやすい。「彼がこんなことを言っている」「彼女がこんなことをしている」と、小さな組織ほど情報がダイレクトに入ってくる。組織が成長するにつれ、経営者と古参社員の考え方の間に大きな溝ができることもある。中途採用が増えると、能力は高くてもほかのスタッフにネガティブな影響を与える社員も出てくるだろう。

 こうしたとき、自分の心の中に次のような大義名分を掲げて見過ごしていることはないだろうか。

 「今は社員の成長を見守る時期だ」「問題は多いが、こんなに能力のある社員は地元では得難い」「地元の雇用を守らねば」

 地域社会に根ざし、まだまだ優秀な人材が集まりにくい環境にある農業の経営者として、立派な心構えかもしれない。実際は「せっかくここまで育てたのに……」という事業主としての心情もあると思う。しかし、その考えは自分都合の発想ではないだろうか。そもそも経営の存続基盤が脆弱な中小企業で、顧客に提供できる価値向上とは関係のないところで、社員を維持する余裕はない。

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