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新・農業経営者ルポ

オレたち、第一次産業のワンダーランドを作りたい

農業者のマーケティング意識に火をつけた消費者

 太陽が南へと昇り始めると、天井のトップライトから漏れる陽の光は葉物売場へと移動する。

「畑の色を再現したいんだよね。だから自然光にこだわってるんです」

 だが生産者からはこんなクレームをつけられたことがある。

「野菜がしおれてしまうじゃないか。もう少し売り方を考えてくれよ」 藤代氏の返答はそっけなかった。

「簡単にしおれてしまうような商品を持ってくるな」 訪れた客は当然、元気な野菜を手に取る。消費者に無視された野菜は売れ残り、時間の経過とともに、その存在価値を失ってゆく。

 売り場には、想像以上に厳しい競争の原理が働いている。その代表的な商品がトマトだろう。生産者名がシールされた5種類のトマトのうち、午前中だけで姿を消したのは「みっちゃんのニコニコトマト」だけだった。他のトマトが200円台の値段なのに対して、「みっちゃん」は480円もする。その価値を知る客が、こぞって購入していくのだ。

 生産者の五十嵐道治氏は、ライバルだったトマトを眺めながら、歯ぎしりの半年間を過ごしたという。「グリーブ」の創設者に、友人の生産者はこんな計画を打ち明けた。

「オレは水分を控えた締め作りをして、糖度と酸味のバランスを整えていきたいんだ」 その後、五十嵐氏が手塩にかけて育てたトマトを口にして目を丸くした。新作トマトの糖分と酸味のバランスが、絶妙のハーモニーを醸し出していたからだ。

 藤代氏は、こう提案した。

「みっちゃん、このトマトは高く売ろう。ほかのトマトよりも100円、いや150円高く売ってやれや」 思わぬ新手の登場に、この地域でも評判だったライバルは、捨て台詞を吐いて商品を引き上げていった。

「なんでウチのトマトが売れねぇんだ。お前らの売り方が悪いんだろ」「グリーブ」の英語表記名「Grebe」とは、印旛沼の村鳥でもある「カイツブリ」を指す。「買いっぷり」にも通じるという理由で店舗名に決めたのだ。カイツブリは警戒心が強く、愛鳥家たちのシャッターチャンスを悩ます。この店でも、一度でも気を許したとたんに下克上が起きる。生産者たちには、警戒心と研究心が常に求められるわけだ。 藤代氏が言う。

「この10年余りで、農業者の姿もずいぶん変わりましたよ。『我われは垣根を低くします。誰でも入ってこられます』と言って直売所を始めたのだけど、ウチは市場からの品物を扱わずに生産者同士だけの競争でやってるでしょ。そしたらトマトみたいに負けていなくなっちゃった人もいれば、這い上がってくる人もいるんです。みっちゃんも勝つための戦術として新しいトマトを開発したわけで、なかにはネギを作ってた人が戦略を変更して、ダイコンで勝負をかけてきたときもあったね」

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