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新・農業経営者ルポ

オレたち、第一次産業のワンダーランドを作りたい

 藤代会長の最初のアクションは、朝市の開催だった。

 利根川や東京湾などと繋がる印旛沼は、長年の干拓事業によって水流を失い、さらに土地開発による人口の激増で、水質に影響を及ぼしている。だが、そうした状況をも逆手に取ろうというのが、藤代会長の朝市案だった。新興住民を対象にした直売を始めようというわけだ。

「ものすごく売れたんです。ところが、そのうち百姓のバカさ加減が出てくるんです。『稲刈りで忙しいから、9月は休むわ』って言ってきましたからね。で、まるまるひと月休業したら、お客さんの足が止まっちゃうわけですよ。秋になれば寒いから、朝市がやってるのかどうか確認するために、わざわざ表には出ないでしょ。つまり、百姓たちの都合で信用を失ってしまったんです」
農業が犠牲にならないために、していること

 販売は直売所で、生産は別組織でという青写真を実現するため、96年冬に生産法人の「アグリ稲庭」を立ち上げた。「印旛」ではなく「稲庭」と名づけたのは、佐倉藩の詳細が綴られた古文書からヒントを得た結果だ。かつての城主は、眼下に広がる田園地帯を天守閣から見下ろし、こんな快哉をあげたものらしい。

「おおッ、稲がよく育つ庭だ」 印旛沼一帯は、千葉県でも有数の稲作地帯だった。

 藤代氏が強調する。

「我われが作ってるものは、人間の命を守っていくうえで必要不可欠なものなんですよ。そしたら商品としてのクォリティや価値観を上げていかないとどうにもならないでしょ」 安全で美味しいコメを、消費者に直接届けたい。そんな想いで自前のライスセンターを建設した。彼には、買い手の顔がしっかり見えている。だが、農業の今後を考えると、大きな不安も頭の中によぎるという。

「スーパーだとか流通が農業者の一本釣りを始めたでしょ。だけど契約栽培農家とGMS(総合スーパーマーケット)との間に、価格交渉をする人間がいないんですよ。たとえば最初は500円で作ってくれと頼まれていたものが、しばらくすると300円にしてくれと値下げしてくる。仕方なくガマンしていたら、今度は200円になる。オレがイヤだと断れば、先方は初めから300円で作ってくれる生産者に首をすげ替えるわけですよ」 値段が下がれば、品質への影響は避けられない。世代交代の波もあり、自分の作物に誇りをもつ農家が次々と廃業へと追い込まれる。この流れを食い止めようと、国が推進するのが集落営農だ。だが地域が限定されるため、販売網を広げることができない。そこで始まるのが、集落営農同士のM&Aだ。だがこれを繰り返すうちに体力を消耗し、やがては企業に取り込まれる運命を選ばざるをえないと藤代氏は予想する。

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