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農・業界

愛知・豊田市の農業特区 「遊休農地活用」のはずが、耕作地借り上げ?

  • 編集部
  • 2004年04月01日
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【●「見切り発車」認める豊田市】

 そもそも遊休農地の有効活用が目的だったはずの農業特区で、なぜ自治体が高額な借地料を払って耕作地を使わなければならなくなったのか。

「遊休農地は点在しているため、研修農場として使うのは現実的ではない。営農支援センターがJAの施設を利用することが先に決まったため、その周辺で農場用地を探す必要もあった」

 市農林課はそう説明するが、借地料については「地権者代表との話し合いの結果。若干高いきらいはあるが……」と歯切れが悪い。その土地交渉にしても、始まったのは、特区の申請をわずか2カ月後に控えた昨年11月末のことだった。農林課の担当者は「正直、もう少しゆっくり進めたかった。新年度スタートを目指した見切り発車だったことは否定できない」と苦しい“内情”さえ打ち明ける。

 豊田市の特区認定について、内閣官房構造改革特区推進室は「営農支援センターや研修農場については、豊田市から詳細を聞いていなかった」とした上で、「これらは特区の『関連事業』であり、認定の観点からは離れている」と説明する。自治体の申請に基づき、国が農地法などの特例措置を図るのが特区制度であり、「関連事業の中身について、国は踏み込んで確認できないし、だからこそ自治体の見識が問われる」のだと言う。

 だが、たとえ書類上は「関連事業」であっても、同センターと研修農場の機能が特区事業の根幹を成すことは、市が拙速に用地確保を進めた経緯からもはっきり読み取れる。「農業による生きがい作り」を掲げた事業は、いつの間にか特区に認定されること自体が目的化し、現場の生産者を軽視した形でスタートを切ろうとしている。


“美名”の下での本末転倒 特区制度への信頼傷つけるおそれも

 構造改革特区制度は昨年4月からスタートし、認定された自治体では、様々な規制緩和が実現する。

 今回の豊田市の農業特区でも、営農支援センターは新規就農希望者に栽培技術指導をするだけでなく、農地取得の下限面積を40aから10aに引き下げて遊休農地の貸付をあっせん。また、市や農協以外の農地所有者による市民農園の開設についても、センターの事業として仲介を進めていくという。

 だが行政側が「関連事業」と位置付ける同センターを巡って、現実には、遊休農地の活用という本来の目的にそぐわない行為がまかり通りつつある。しかも市はこの間、地域住民への説明を十分にしてきたとは言えず、国もまた、市が研修農場をどうやって作るのか把握さえしていなかった。相場の2.5倍という借地料が、地権者と耕作者の信頼関係を揺るがしかねない点にも、あまりにも無頓着すぎないだろうか。

 市担当者は特区の活用について「将来はトヨタ自動車にもかかわってほしいという願いがある」と話しており、「企業城下町」である同市が、自動車産業を巻き込み、地域農業を活性化したいという意気込みは伝わってくる。

 だが、せっかくの特区で、やる気のある生産者が農地を失ってしまったのでは、本末転倒と言わざるをえない。「構造改革」という“美名”の下で、予算を背景にもつ行政が生産者の経営を妨害するとしたら、この制度への信頼が損なわれるおそれがある。【秋山基】

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