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【土門「辛」聞】
やはり起きていた集落営農組織の矛盾
- 土門剛
- 第60回 2009年07月01日
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岩手でサボタージュ。山形では新顔の台頭
盛岡市近辺で大規模稲作を展開する専業生産者Aさんが、連休明けにこんなレポートを送ってきた。
「田植えが終わって、水管理が必要なのに、朝になっても農家さんが田圃に出てきません。いつもなら田圃の脇で世間話に花が咲くのですが。植え放しで、根も弱そうですし。こんなことは初めての経験です」 いつもと違う田圃風景にAさんは今も不思議がる。田植え前、転作誘導の補助金がガッポリ出たのに、農家はコメ作りの意欲をなくしてしまったのである。
この地の田植えは5月中旬に始まる。Aさんが不思議がったのは、田植えが終わると、いつもなら田圃の水管理にやってくる農家があちこちに見られるのに、今年は農家の姿がめっきりと少なくなった。おかげで田植えと同時に多くの田圃が「捨て作り」モードになっている。 Aさんの話を聞いて、これは異変を告げるシグナルかもしれないと考えた。もし他県でも同じようなことが起きているなら、米価にも影響すると思い、ほかの産地にチェックを入れてみた。
チェックを入れたのは、別の「田圃の異変」を昨年末から伝えてくれた山形県のBさん。コメにサクランボ栽培を営む大規模生産者だ。彼からも同じ話を聞かされていた。
「今年の田植えは、見慣れない新顔が多くてね。農作業をしながら、『やぁ~、お久しぶり』と挨拶することが多かったよ。みなさん、会社勤めでね、残業カットやらリストラで、田圃に戻ってきたみたいだ」 この地は、自動車やエレクトロニクス関連の工場がいくつもあり、そこへ兼業農家が働きに出かける典型的な兼業地帯先である。正月明け、Bさんはこんな電話をかけてきた。
「例年なら、年末から正月にかけて、田圃を借りてくれないかという相談が持ち込まれますが、今年はほとんどといっていいほどなかったよ。おかしいなと思い、いろいろと探ってみたら、勤め先でリストラに遭ったり、あるいは操業短縮で休日が増えたので、田圃に戻ってきたみたいだ。40~50代の方が多かった」 この世代は、企業進出ブームでミニバブルが起き、ローンでマイホームを建てたりした。景気がよい頃には、残業代も期待できローン返済も順調に進んだ。そして休日ともなれば、田圃はお爺ちゃんに任せてゴルフなどにうち興じることもできた。
ところが勤務先の業績悪化で、工場の操業時間が短くなり、景気が回復するまで週休3日、4日という異例のシフトになった。給料の大幅カットもくらい、最近はローンの返済にも事欠くようになった。ゴルフどころではなくなったのだ。サブプラ・ショックが田圃の光景を変えてしまった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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