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集落営農への恨み辛みが飛び交う病院の待合室
岩手では田圃から人の影が薄くなり、山形ではニューフェースが田圃に登場してきた。同じコメ主産地でも田圃の風景のあまりにも違いに、ちょいと面食らってしまった。あれこれ原因を考えてみて、まず浮かんだのが、農家の懐具合だ。家計収入を補うべくコメ作りに勤しむという図式で、ビンボー県ほど田圃に熱心になるという仮説を立てたのだ。
都道府県の所得ランキングを見てみよう。岩手234万円(41位)に対し山形247万円(35位)。その差は13万円。ビンボー度はどっこいどっこい。この仮説は外れのようだ。
次に思い浮かべたのが、双方の農業事情の比較。浮かんできたイメージは、岩手が系統ガチガチで集落営農組織大好き県。方や山形県は、農協の一角を崩す集荷業者がいて集落営テキトーにお付き合い県。この地の農協組合長はもともと集落営農に反対しておきながら、生活の知恵なのか、その後、協力したという事実からそう呼んだ。
系統ガチガチ度。コメ流通の産地別系統シェアの数字が参考になるが、この数字は公表されていない。商人系集荷業者の数での比較は一つの手掛かりになろう。全集連に参加する集荷商は、山形の方が多い。岩手の集荷商に系統シェアを聞くと、「限りなく100%に近い」という回答があった。山形には旧食管時代から自由米を扱う業者がいくつもあった。可哀想なことに岩手の農家は農協以外に売り先を持たないという「悲劇」を背負わされている。
次いで集落営農組織数。農水省統計部の最新データ(今年2月公表)では、集落営農組織の数は、山形421に対し、岩手581。岩手の方が多いのは、やっぱりと思わせる数字だが、山形県の数字は疑問を抱かざるを得ない。この県は集落営農に対し農協組合長が反対していた経緯があったからだ。Bさんがこう解説してくれた。
「山形では、名ばかりの集落営農組織を立ち上げたが、『経理の一元化』まではやらなかった。そんなことをやったら農家は絶対に協力してくれないと思ったからでしょう。その代わりに農地の集約だけはやっておこうということで話がついていたそうです。組織を立ち上げておけば、品目横断的経営安定対策の受け皿にもできますからね」 集落営農は、農水省ホームページ「専門用語の解説」に定義がある。それによれば、「集落など地縁的にまとまりのある一定の地域内の農家が農業生産を共同して行う営農活動」。田圃で見られるシーンは「共同購入した機械の共同利用」ということか。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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