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編集長インタビュー

何かを加えるのではなく、過去を捨ててこそ実現する経営革新


何かを捨ててこそイノベーションは生まれる

昆 先代は松井社長の行動に反対はしなかったわけですね。

松井 とにかくクールというか合理主義者でした。一方で完璧なオーナーであるにもかかわらず会社経営にそれほど興味がなかったように見えました。もともと彼は学者肌で医者になりたかったのに、創業者の祖父から強引に後を継がされた経緯があります。だから証券業界の人たちと付き合うよりも、学者とか芸術家になった同級生と付き合う方が楽しかったみたいですよ。「おやんなさいよ、でもつまんないよ」は、そんな背景から出た言葉だと思います。それともうひとつは、大蔵省(当時)に牛耳られているからまともな商売ができないという意味。たぶん本音だったのでしょう。

昆 実は農業の世界も婿さんが活躍するケースが多いんですよ、松井社長のように。婿さんは慣例を否定して、新しいことにチャレンジすることができる。そんな人材の登場で、農業界も変わりつつあります。

松井 シュンペーターという経済学者が「創造的破壊」という言葉を使いましたけど、あれは「創造的破壊」であって「破壊的創造」ではないんです。物事はまず破壊しなくてはいけない。破壊というと刺激的に聞こえますが、修正して何かをやるよりも、更地に新しいものを作った方が物事は早いんです。イノベーションとはそういうものなんですよね。だから、たとえば電気自動車なんてイノベーションとは呼べません。

昆 技術の改良にすぎないんですね。

松井 ええ。もし自動車産業でイノベーションを起こすなら、たとえば鉄道と同じように、車を所有するという概念をなくして、道路にチップを埋め込んで、車と一体化した輸送システムを編み出すとかね。これならイノベーションです。それは農業だってあり得ると思うんですよ。

昆 松井社長も数々のイノベーションを実行してこられたと聞いています。まず、外務員たちの外交セールスを廃止してしまった。

松井 それは段階的にやったんですけどね。岡目八目といいますか、僕は株のことはよく知らないのですが、営業の様子を見ていて、お客さんって本当にセールスされたいのかなと。たとえば、デパートで服を買うときに店員が横についているとうっとうしいじゃないですか。聞きたいことがあればこちらから声をかけるって。

昆 外務員たちの「誠意」で行なわれるセールスも、デパートのうるさい店員と同じというわけですね。

松井 商売にはすべてコストがあって、コストは必ず価格に転嫁されるわけです。「誠意」をコストとみなせば値段に反映されるわけですが、そんな「誠意」はいらないよって(笑)。だからうちは受け身に徹しようと決めて、セールスをやめてコールセンターを立ち上げ、これが当たりました。皮肉なもので、コストをかけない方がお客さんが集まってきて、顧客数が5倍に増えたんです。

昆 当時の業界の常識からいうと、まさに常識外れだったと思いますが、お客さんには理解されたんですか?

松井 花が開くのに3~4年はかかりましたね。これはもう自分の執念で、徹底的に宣伝し続けました。歩く広告塔としてどれだけ講演したかわからないし、広告だって全部自分が中心になって作りましたよ。そのうちに「継続は力なり」で、以前は店舗があった東京と長野周辺にしか顧客がいなかったのに、営業しない変わった証券会社があると評判になり、日本中から電話がかかってくるようになりました。

昆 これまで訪問できなかった地域のお客さんを発掘できたわけですね。

松井 そうですね。営業をうっとうしいと感じていたお客さんは潜在的にたくさんいたわけです。

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