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編集長インタビュー

何かを加えるのではなく、過去を捨ててこそ実現する経営革新

 昆 なるほど。従来のビジネスモデルはもう古いという前提でやっているわけですが、外務員たちの反応はいかがだったのでしょうか?

松井 一度一つの考えに染まった人間は、それと違う現実を認めたくないんですよ。外務員には「俺たちがどれだけ苦労して顧客を開拓したかわかってんのか!」と言われましたけど、そうは言っても、あんたがバカにしているコールセンターの女の子が、あんたの2倍も3倍も手数料を稼ぐんだよって。結局、98年頃には外務員は全廃しました。最後まで残った人たちには、「申し訳ないけど僕はこういう方針だから。ほかの証券会社を紹介するから」と説得して。

昆 それで今度は、せっかく作ったコールセンターを数年でやめてしまいますよね。

松井 受け身に徹するなら、機械化してしまうのが一番コストがかからないんです。機械化できるシステムがなかったから電話という旧来のツールを使っていたわけですが、インターネットの普及を受けて、米国シリコンバレーに行って研究してシステムを開発し、98年に国内初のオンライン取引を始めました。ただ、それまで大成功しているコールセンターをどうするかが大問題でした。悩んだ挙句、コールセンターを維持するために、電話で受けて、それをオペレーターがオンライン上のシステムに入力するという仕組みも考えてみました。でも、お客さんが直接インターネットで取引する方が早いのは明らかだったんです。それでもう、こんな足して2で割るような対応はやめようと思い、コールセンターの全廃に踏み切りました。

昆 それが、1+1が2ではなく、ゼロになるという「松井流の数式」の解釈ですか。

松井 マイナスの過去を捨てずに何かを加えても、相殺する分があるからプラスにはならないんです。過去を捨てることで大きな変革を実現できる。そういう意味では、僕にとって、インターネットを始めたことより外交セールスをやめたことの方がはるかに大きい。

昆 その捨てるべきもの、あるいは逆に言うと残すべきものを決めるのは、人にはなかなか踏ん切りがつかないものですよね。

松井 少なくとも変化の極めて大きい現在のような状況下では、残すより、捨てることで得られるプラスの方がはるかに大きいと思います。時代の変化が大きければ大きいほど、実は残すべきものなんてそれほどないんです。逆に世の中にあまり変化がないときは、捨てるべきマイナスの部分は少ない。だからそれを否定するよりは、1でも2でも加えた方がトータルは大きくなる。

昆 ただ、見方によっては、マイナスの部分をプラスととらえる人もいると思います。イノベーターの種類というか、その人の視点によるんじゃないでしょうか。

松井 それはあると思います。僕にとってのマイナス10は、それに代わるべき10があるということ。単に引くだけじゃなく、引くことによって加えるものが鮮明になってくる。だから、その選択が正しければ効果は倍増することになります。

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