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一般に所得補償と呼べば、誰しも家計所得を補てんしてくれると思うのではないか。羊頭狗肉と評したのは、この点、単なるコスト補てんでしかないとみたからだ。
国会審議でも同じような疑問が出ていた。平成19年11月8日の参議院農水委員会での牧野京夫議員(自民)の質問だ。この法案は、参議院で多数を占める民主党が議員立法の形態をとったため、自民党議員が野党役で法案提出者の民主党を追及することになった。
「販売額が生産額を下回った場合、それをその差額として支払うというふうに書いてありますけれども、これは販売額が生産費を下回った場合というのはこれは利益じゃなくて、要は言葉で言うと利益が出ない、ちょうどゼロのところに持っていくことになりますよね。ですので、私は所得という言葉じゃなくて、というのは適当な言葉じゃなくて、収入ならまだ分かりますけれども、所得の補償という言葉はちょっとこの法案の中身とは当てはまらないんじゃないか(後略)」
笑ってしまうのは、これに対する民主党の回答。答弁は平野達男議員。
「農家が直接米を売ったときにどれだけ、一俵当たりどれだけのお金が入るかということなんですが、このデータを何ぼ探しても出てこない。これは不思議なんですね(中略)農家に聞いても、大きめの農家は別かもしれませんが、いわゆる高齢者の方々に話聞くと、一俵どれだけ、米売るとどれだけ手元に入りますか、前渡金は一万一千円だったな、あと精算されているんだけど、どうなっているのかな、分からないと言うんです。それは農協に通帳を預けているから行き先が分からないんですよ。こういう事態があるというのは事実なんです。だから、そういうことに対して、じゃそういうデータをしっかり把握、いかにして把握するか。米ですらこういう状況だから、多分いろいろ問題があると思います」
平野議員は正直だ。コスト意識のない零細規模農も販売農家であれば、所得補償の対象になると、シドロモドロの答弁で認めているのである。先祖伝来と称する農地を守るため、あるいは生きがいを得るためにコメ作りをしている零細規模農にまで税金で所得補償すれば、非農家の有権者がカンカンに怒るのは目に見えている。
これに対する牧野議員は、突っ込み不足。相手がせっかく論理破たんしたような答弁をしているのに、十分にやりこめていないからだ。その理由、読者諸兄は何だと思われるだろうか。それ以上追及すれば、自民党は零細規模農に対し冷淡との印象を与えてやぶ蛇になるからだ。言葉足らずと思ったのか、平野議員は「所得補償」の意味をこう補足説明している。
「私ども所得という言葉を使ったのは、労賃も物財費も含めて投入したことに対して市場価格がどういう値段で形成されるかということから考えて、本来であればその労賃と、少なくとも労賃と物財費は賄われるような値段で価格が形成されることが望ましいんだろうと思います。そして、その労賃と物財費の部分が本来でいうところの受け取る額の総売上げといいますか、所得といいますか、そういう形で、言葉でとらえて、その差額が出た場合に本来受け取るべき収入が、収入と正におっしゃいましたけれども、収入の部分が不足していると、そこの部分を補てんするということです。
そして、厳密な意味で所得だとかそういう概念でとらえますと、いわゆる所得という概念とは違うという御指摘は多分出てくるかと思います。しかし、今私どもが言っているのは、本来受け取るべき販売総収入、販売額に対して不足が起こっている、そこの部分を補てんすることによって結局はやっぱり所得を補償することになるんだという考え方でこの法律の名称を考えている(後略)」
所得補償という名称が誤解を与えると認めても、なお問題が残る。所得補償が及ぶ範囲を、「労賃と物財費」と指摘してきた点である。物財費はともかく、農地保全や生きがいを目的にする零細規模農の労賃をどうカウントするのか。この点についての説明が何もない。牧野議員が厳しく追及すべきはこの点だった。
国会審議でも同じような疑問が出ていた。平成19年11月8日の参議院農水委員会での牧野京夫議員(自民)の質問だ。この法案は、参議院で多数を占める民主党が議員立法の形態をとったため、自民党議員が野党役で法案提出者の民主党を追及することになった。
「販売額が生産額を下回った場合、それをその差額として支払うというふうに書いてありますけれども、これは販売額が生産費を下回った場合というのはこれは利益じゃなくて、要は言葉で言うと利益が出ない、ちょうどゼロのところに持っていくことになりますよね。ですので、私は所得という言葉じゃなくて、というのは適当な言葉じゃなくて、収入ならまだ分かりますけれども、所得の補償という言葉はちょっとこの法案の中身とは当てはまらないんじゃないか(後略)」
笑ってしまうのは、これに対する民主党の回答。答弁は平野達男議員。
「農家が直接米を売ったときにどれだけ、一俵当たりどれだけのお金が入るかということなんですが、このデータを何ぼ探しても出てこない。これは不思議なんですね(中略)農家に聞いても、大きめの農家は別かもしれませんが、いわゆる高齢者の方々に話聞くと、一俵どれだけ、米売るとどれだけ手元に入りますか、前渡金は一万一千円だったな、あと精算されているんだけど、どうなっているのかな、分からないと言うんです。それは農協に通帳を預けているから行き先が分からないんですよ。こういう事態があるというのは事実なんです。だから、そういうことに対して、じゃそういうデータをしっかり把握、いかにして把握するか。米ですらこういう状況だから、多分いろいろ問題があると思います」
平野議員は正直だ。コスト意識のない零細規模農も販売農家であれば、所得補償の対象になると、シドロモドロの答弁で認めているのである。先祖伝来と称する農地を守るため、あるいは生きがいを得るためにコメ作りをしている零細規模農にまで税金で所得補償すれば、非農家の有権者がカンカンに怒るのは目に見えている。
これに対する牧野議員は、突っ込み不足。相手がせっかく論理破たんしたような答弁をしているのに、十分にやりこめていないからだ。その理由、読者諸兄は何だと思われるだろうか。それ以上追及すれば、自民党は零細規模農に対し冷淡との印象を与えてやぶ蛇になるからだ。言葉足らずと思ったのか、平野議員は「所得補償」の意味をこう補足説明している。
「私ども所得という言葉を使ったのは、労賃も物財費も含めて投入したことに対して市場価格がどういう値段で形成されるかということから考えて、本来であればその労賃と、少なくとも労賃と物財費は賄われるような値段で価格が形成されることが望ましいんだろうと思います。そして、その労賃と物財費の部分が本来でいうところの受け取る額の総売上げといいますか、所得といいますか、そういう形で、言葉でとらえて、その差額が出た場合に本来受け取るべき収入が、収入と正におっしゃいましたけれども、収入の部分が不足していると、そこの部分を補てんするということです。
そして、厳密な意味で所得だとかそういう概念でとらえますと、いわゆる所得という概念とは違うという御指摘は多分出てくるかと思います。しかし、今私どもが言っているのは、本来受け取るべき販売総収入、販売額に対して不足が起こっている、そこの部分を補てんすることによって結局はやっぱり所得を補償することになるんだという考え方でこの法律の名称を考えている(後略)」
所得補償という名称が誤解を与えると認めても、なお問題が残る。所得補償が及ぶ範囲を、「労賃と物財費」と指摘してきた点である。物財費はともかく、農地保全や生きがいを目的にする零細規模農の労賃をどうカウントするのか。この点についての説明が何もない。牧野議員が厳しく追及すべきはこの点だった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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