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顧客の要望は千差万別
実際、得意先回りをしたことで、「TMR飼料を作ってくれないか」というこれまでにはなかった依頼を、複数の顧客から受けた。当社は発酵させたデントコーンを商品化しているが、これは家畜にとってご飯のような主食のエサ(粗飼料)である。家畜にはその他、おかずに相当するエサ(配合飼料)も必要だ。TMR飼料とはご飯とおかずをバランスよく混ぜたセットメニューである。もとはといえば畜産農家は自ら粗飼料を生産し、買ってくる配合飼料と混ぜて、独自メニューを作ってきた。そんなエサのプロであるはずの彼らが、わたしのような畑作農家に「セットメニューを作ってくれ」といってくれる。
一方、諸先輩方からは「TMRには手を出すな」というアドバイスをいただく。「大手飼料メーカーが手がけている事業だ」「原材料の調達が不安定」「コストダウンしている大規模な畜産家相手の商売は厳しい」といった理由からだ。わたしのような弱小事業者が作ったところで、とても商売の見込みはないというわけだ。
だが、それらは「だからダメだ」と決めつける理由になるのだろうか?
もしかすると1000頭の畜産家がどうしても足りないときに、年に1回1頭分のTMRを購入する場合もあれば、1頭の畜産家がわたしのTMRを365日分欲しがることもあるかもしれない。小規模顧客が、大規模顧客の365倍買うことがあるのが商売だ。これは粗飼料の販売で実際に起こっている。
規模の大小は顧客の“外面”にすぎない。“内面”にある顧客の要望は千差万別であり、それを千差万別のまま受け止めればいい。これがわたしの商売の信条だ。
ビジネスチャンスのありか
スタッフに回らせている時、「エサを納品するついでに糞尿の処理も頼めないか」という依頼を受けた。飼料販売業者の立場からしてみると“異常値”と言っていい注文である。しかしこれを例外だと考えて、流してはいけない。
お客さまをただの売り先と考えず、経営体としてとらえれば、飼料の配合も糞尿処理もひとつのビジネスチャンスである。本当に困っているから「やってくれ」という声が上がるのだ。異常値には必ずビジネスのヒントが隠されている。そこで「俺の仕事は作ることだけだから」と決めつけると、自らビジネスチャンスに耳をふさぐことになり、お客さまの心の声が聞こえなくなる。向こうが真摯に頼んできたのであれば、こちらも真摯に受け止める。
顧客分析の結果、紙に残ったモノ(情報)は経営者の心に残らないが、真摯に受け止めたコト(声)は感情に残る。そして、その感情が「俺がやらなければ誰がやる」と心に訴えかけてくる。これを商売が成功した後で振り返れば、「ニーズがあった」と呼ぶのだろう。
ニーズ=顧客に役立つことは時代とともに変わる。役立つことの最前線に立っているのが社員であり、それを取捨選択し、会社全体で集中をはかるのが経営者の仕事である。
それを実践する方法こそ、「自分の仕事を決めつけない」ことではないかと思う。
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坂上隆 サカウエタカシ
農業生産法人 株式会社さかうえ
社長
1968年鹿児島県生まれ。24歳で就農。コンビニおでん用ダイコンの契約栽培拡大を通して、98年から生産工程・投資・予算管理の「見える化」に着手。これを進化させたIT活用による工程管理システム開発に数千万円単位で投資し続けている。現在、150haの作付面積で、青汁用ケール、ポテトチップ用ジャガイモ、焼酎用サツマイモなどを生産、提携メーカーへ全量出荷する。「契約数量・品質・納期は完全100%遵守」がポリシー。03年、500馬力のコーンハーベスタ購入に自己資金3000万円を投下し、トウモロコシ事業に参入。コーンサイレージ製造販売とデントコーン受託生産管理を組み合わせた畜産ソリューションを日本で初めて事業化。売上高2億7000万円。08年から食品加工事業に進出。剣道7段。
坂上隆の幸せを見える化する農業ビジネス
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