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このようにイネは土の力で作るというのが基本なのですが、近年は水稲作への取り組みが粗雑になっており、この基本を疎かにした考え方をしている農業者も少なくないようです。イネが実に強い作物であるために、農業者が細かな操作を行なったりイネの反応に神経を尖らせたりする必要がないと感じるからなのか、あるいは低コスト化・省力化・大規模化を考えた結果なのか分かりませんが、いずれにしても土づくりをしないことには良い結果にはつながらないでしょう。基本はやはり大切にするべきです。
イネの成長を転換させ、窒素を引き出す中干し作業
水稲栽培は中盤から後半戦という時期に入っていますので、ここからは中干し作業について具体的に検証してみたいと思います。水田を一時的に畑状態にして変化をつける中干し作業は、イネの成長も転換させます。その意味を理解するために、前段階の作業から振り返ってみましょう。
イネは5月上中旬に田に植えられた後、葉色の変化、立ち上がりを経て、土壌中の栄養をさらに吸収して体をつくっていきます。そうして田植えから30日ほど経つと稲株が一定の大きさになって安定した姿になります。農業者としては作業が一段落したという気持ちが湧いてくると同時に、育てる仕事の醍醐味も味わう時期です。この段階から先、イネは生育の方向を大きく転換していきます。いよいよ穂を出し、実りを進めていく時期に入るわけです。ここでやるのが、水田の土を乾かすための落水です。
ちなみに、それまで水に浸っていた土の色は、ごく表面(正しくは2~5mm程度)は褐色、その下は灰色になっているはずです。水田の土の表面が一定の厚さで褐色をしているのは、灌漑水に溶けていた酸素が土の表面を酸化させるためです。この酸素は一定以上の深さまで入ることはないので、ある深さまでの土は褐色になり、酸素が及ばない深さでは鉄が還元状態となって灰色を呈することになります。こうした状態を水田土壌の安定状態と捉えることもできますが、中干し作業はこの段階でやるわけです。
水を張った水田を一気に落水し、土が梅雨開けの強い日差しを受けると意外に早く表面が乾いてきます。3日も晴れが続くと少しひび割れが生じてきて、ひび割れの中にはイネの根がびっしり生えているのが確認できるようになります。この時の根は急激な乾燥とそれによる畑状態にさらされ、湛水状態のときに地上部から盛んに酸素を送り込んでいた根とは、短期間ではありますが構造を変化させています。湛水下では地上部から酸素を送ることができるように根の中に通道組織を発達させるのですが、畑状態になるとその部分がすみやかに緻密な組織に変わるといわれています。私自身、根の断面の変化を顕微鏡で確認したことがありますが、落水前と後での組織構造の変化の大きさには驚きました。こうした現象も起こす中干し作業は、イネの生理的転換期に応じて一時的に畑地化して次の生殖生長へ導いていく手段であり、昔から稲作の慣行技術として行なわれてきました。
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関祐二 セキユウジ
農業コンサルタント
1953年静岡県生まれ。東京農業大学において実践的な土壌学にふれる。75年より農業を営む。営農を続ける中、実際の農業の現場において土壌・肥料の知識がいかに不足しているかを知り、民間にも実践的な農業技術を伝播すべく、84年より土壌・肥料を中心とした農業コンサルタントを始める。 〒421-0411静岡県牧之原市坂口92 電話番号0548-29-0215
過剰の対策、欠乏の克服
「土壌診断」という言葉は農業界に浸透し、多くの人がその必要性を感じているものの、調査は専門機関に委ね、その処方に基づいた施肥を行なってきたのが現状だ。ここでは現場で農業者が主体となって行なう土壌調査と診断方法について紹介していく。
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