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新・農業経営者ルポ

単独で260haの畑作経営を回す北海道の一匹狼

北海道中標津町の上原安浩(51)は、畑作での従業員1人当たりの経営面積ではおそらく日本一を誇るのではないかと思われる。オペレーションは83歳になる父と2人でこなす。経営規模が240ha(注:総面積は260ha)なら目標設定も240%。大きく構えてそこに近づくことで利益を出していく。6ページの写真にあるように、鋭いまなざしで状況判断をし、自分がどうあるべきかを考えている。 文・写真/永井佳史
グリメの2畦を導入

中標津空港の北東10kmほどのところに上原の農場はある。真東に進めばくちばし形の地形をした野付半島に出る。周囲をレンタカーで走ってみると、広く平坦な農地で生産されている作物といえばどこもかしこも牧草ばかりで、畑作物を見つけるのは難しい。そうしたなかにあって、約240haでの畑作専業経営は異色の存在だ。
筆者が上原を知ったのは2008年秋のことになる。旬の食材がテーマの雑誌でジャガイモが取り上げられた際、一生産者として栽培方法に対するこだわりなどが載っていた。その後、小社の刊行物の読者だったこともあり、10年と11年に連続して訪問している。11年はちょうどジャガイモの収穫期間中で、ディガーで地表に掘り起こした塊茎をピッカーで拾い上げていた。上原の自宅に隣接した1枚24haの広大なジャガイモ畑と、運搬のホイールローダーの動きは迅速だったとはいえ、悠然としたディガーとピッカーという構図――。このときはもともと取材目的ではなかったが、圃場に落ちるジャガイモを持ち帰らせてもらうにとどまった。
それから3年の月日が流れたある日、農業関係の雑誌に掲載された農機輸入商社の広告で独・グリメ社のポテトハーベスターを目にする。これは後にグリメ社の日本正規代理店に確認してわかったことだが、その機械の規格は2畦けん引式(SE15060)だった。補足するとグリメ社の2畦ポテトハーベスターは自走式を含め北海道に20台足らずしか導入されていない。そんな希少な機械の前で納入先と思しき人物が何人かと並んで写っている。写真が小さかったものの、見覚えのある顔にとっさに反応した。そう3年前にディガーやピッカーを使っていた上原だったのだ。
これを受け、筆者は改めて収穫シーズンの中標津に向かった。その模様は、小社で手がけるジャガイモ専門誌『ポテカル』2014年12月号の特集「コントラクター目的でない己のための2畦ハーベスター~導入した彼らはどんな経営者なのか~」で先行して紹介している。そこでのこぼれ話……というと大いに語弊がある。上原は本誌にこそふさわしい取材対象者だった。

先達の教えに則った高速収穫、
作業能率は従来機の8倍

取材は、2畦ポテトハーベスターをけん引するジョンディアの170馬力トラクター・6170Rのキャビン内で行なうことになった。あらかじめ断っておくが、休憩時ではなく、作業中だ。グリメ社の2畦ポテトハーベスターの掘り取り部には自動畝合わせ機能が搭載されているとはいえ、時速8kmでの高速作業である。しかも、実質的な運用は当年、いや厳密にいうと取材日当日の午前中だったようで、筆者が上原の隣で話を聞き始めた午後1時半ごろには操作関係のコントローラー制御とともにこのように手慣れたものだったのだ。いくら先達に「取扱説明書にはPTOが540回転のときは時速7kmで走行するとあったよ」と教えられても、これまでの経験が邪魔して自制してしまうのが人の常ではないだろうか。いわば水稲での代かきや田植え、畑作でのロータリーハロー信仰から脱却できないのと状況は変わらない。

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