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シリーズ水田農業イノベーション

食料自給率とトウモロコシ国産化の寄与度 ―新しい農村の未来像が見えてきた―

本誌では、飼料米に対する水田転作の交付金額はあまりにも法外であり、やがて国民的理解を得られなくなるだろうと批判してきた。自民党政府は民主党時代に策定された50%の自給率向上の目標値を45%に引き下げた。しかし、今回の45%という水準も何を根拠にし、またそのための財政負担がどれだけ必要かということを示していない。しかし、叶氏によれば、食料自給率1%向上に要する財政需要は、標準単収で4,210億円、多収性品種で4,920億円もかかると試算している。さらに、それをトウモロコシで行えば転作助成は1,030億円であり、標準単収飼料用米の4分の1、多収性品種飼料用米の5分の1で済むと試算している。

天地がひっくり返る?!
転作助成

稲作農家にとって、平成26年(2014年)は経営の厳しい年だった。米価が暴落した。農家が農協から受け取る26年産米の概算金(仮渡し金)は、60kg当たり、秋田あきたこまち8500円(前年比△3000円)、宮城ひとめぼれ8400円(△2800円)、福島コシヒカリ(中通り)7200円(△3900円)と前年比25~35%下落の暴落である。多くの銘柄が601万円を下回っている。農家にとって、過剰供給ほど怖いものはない。
こうした価格暴落を受けて、政府は主食用米以外の作物の本作化を図り、飼料用米等を戦略作物として奨励する方針である。しかし、飼料用米に作付誘導するための転作助成(水田活用の直接支払交付金)は、驚くべき高水準だ。
図1に示すように、販売収入に比べて交付金の方がはるかに大きい。農家収入に占める交付金の割合は9割に達する(2011年度)。標準単収の飼料用米の場合、10a当たり販売収入は7000円に過ぎないが、交付金は8万円である。多収性専用品種の場合、販売収入は9000円に過ぎないが、交付金は11万7000円である(交付金上限10・5万円+多収性専用品種産地交付金加算1・2万円)。
農家収入に占める販売収入の割合は1割未満であり、極めて小さく、市場の需要というよりは、補助金の単価が作付する作物の選択に大きな影響を与えている。
さて、26年産米は大幅な価格下落を見た。上述したように、概算金は軒並み1万円を切った。10a当たり単収9俵(540kg)とすると、農家の販売収入は10a当たり9万円に満たない。飼料用米に転作し、補助金をもらった方が儲かると言うことになる。転作が進むのではないか。
主食用米の需給改善を図るため、JA全農は27年産米では“飼料用米60万トン”の生産振興を目標に掲げている。
仮に交付金の水準がこのままであれば、転作が増えて、米は過剰な流通在庫が解決するだけに終わらず、主食用米の不足に見舞われることになるのではないか。今度は米価高騰である。法外な交付金による政府介入が成功すれば、米価はジェットコースター的乱高下になる。
26年産の地獄を見るような価格暴落から、27年産、28年産は価格高騰。天と地がひっくり返ったような動きになりかねない。ただ、米価の高騰が続けば、水田転作の交付金は間違いなく減額されるであろうし(猫の目農政)、また、そういう事態を見越して、経営感覚の高い農家の中には交付金を目指した転作をしない農家も多いであろう。したがって、米価騰落の高低差はある程度は緩和されたものになろう。

飼料用米かトウモロコシか
―財政負担の比較―

日本の畜産業は輸入飼料に依存して発展してきた。飼料用トウモロコシの輸入は1000万トン超もあり、飼料自給率は26%と低い。飼料の輸入が食料自給率を引き下げているので、飼料の“輸入代替”による自給率向上を考えるのは、当然の論理である。しかし、どの作物で輸入代替するかで、財政負担は大きく異なる。
トウモロコシは土地利用型の典型であり、広大な農地を持つ米国の競争力が強い。国産トウモロコシは価格競争力がない、と言うのが大方の常識である。政府もこうした見方にしたがったのであろうか、トウモロコシではなく、“飼料用米”に高額補助金を与えて転作を奨励することにした。
先に図1で見たように、標準単収で10a当たり8万円、多収量品種で11・7万円、水田活用の直接支払交付金を出している(注、この多収性品種加算金は平成26年度から導入)。この場合、食料自給率1%向上に要する財政需要は、標準単収で4210億円、多収性品種で4920億円もかかる(筆者試算)。

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