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シリーズ水田農業イノベーション

食料自給率とトウモロコシ国産化の寄与度 ―新しい農村の未来像が見えてきた―


仮に、輸入トウモロコシの輸入代替を図り、国産の飼料用米で総合食料自給率を40%から45%へ、5%引き上げようとする場合、年間2~2・5兆円の財政需要が発生する。これでは主食用米の減少が続き水田転作が増えれば、財政負担が大きくなる。このような巨額の財政負担を要するのであれば、飼料米による食料自給率の向上はほとんど不可避なのではないか。
一方、トウモロコシ(デントコーン)を国産し、輸入トウモロコシへの輸入代替を図った場合の財政需要を試算してみよう。計算手続きは飼料用米と同じであるが、トウモロコシの方が土地生産性が高いこと、また交付金が少ないことから、食料自給率1%向上に要する転作助成は1030億円である。標準単収飼料用米の4分の1、多収性品種飼料用米の5分の1で済む。注

国産トウモロコシの競争力
―Non-GMOとの競争―

問題は、10a当たり3万5000円の交付金で国際競争力があるかどうかである。輸入トウモロコシの多くは遺伝子組み換え作物であるが、一部Non-GMOがある。Non-GMOは主にコーンスターチおよび食品用であるが、一部エコフィードの飼料工場でも使われている。年間、約150万トンの需要がある。輸入価格は40000円/トンである(2015年1月志布志湾、国内物流込み)。国産トウモロコシが競争できるのはこのNon-GMOである(注、飼料用トウモロコシの輸入価格は27000円/トン)。
図1に示したが、国産トウモロコシの生産経費は10a当たり3万円前後である(北海道長沼町の農家の事例。飼料用トウモロコシ国産化の旗振り役の本誌編集長昆吉則氏の情報)。まだ国産のトウモロコシ生産はなく、実験段階であるが、水田でも畑作技術体系を導入することで低コスト化に成功している。販売価格は、国産のトウモロコシはNon-GMOであること、「国産」であるという魅力が加わって輸入品より高くなり、やがては45000円/トンでも割安になると見られている。
単収800kgで試算すると、10a当たり販売収入は3万6000円である。これに転作助成交付金を加えると、農家収入は7万1000円である。一方、経営費は3万円であるから、農家の所得は10a当たり4万1000円となる(図1)。主食用米の生産より高所得である。つまり、3万5000円の交付金を前提にすると、Non-GMO輸入トウモロコシと十分競争できる。
世の条件変化は、トウモロコシ国内生産を可能にする方向を向いている。第1に、従来のような高米価の下では飼料用トウモロコシへの転作を考える農家はいないが、米価の下落傾向は明白であり、米作りの収益性は著しく低下した。トウモロコシへの転作で、米作りより高所得になる可能性が展望できるようになってきた。第2に、稲作に専念してきた伝統的な農家が高齢化でリタイヤする局面になった。「転作政策」が効果の出る時代に移ってきたと言えよう。米価下落、農家の高齢化という二つの条件変化から、転作が従来より進みやすくなったと考えるべきだ。トウモロコシ国産化には追い風である。

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