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土門「辛」聞

したたかな中国外交に翻弄されて日米主導のTPP交渉は最終局面へ

中国が主導で設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)――TPP交渉で中国を封じ込めようとした日本と米国へ、習近平政権が放った外交ミサイルだった。
TPP交渉参加国で有力国のオーストラリアが、中国の誘いに乗り、AIIBに出資することは、2015年1月号の本コラムで紹介した。出資国はその後も増え、ついに英国までが出資に応じる事態に発展。今月号は、これがTPP交渉に影響を与えているという話を取り上げてみたい。

日米中がAIIBで暗闘

AIIB――おさらいをすると、アジア太平洋地域の道路や鉄道建設など巨額資金の伴うインフラ整備に資金を提供するのが目的だ。アジア開発銀行(ADB)が先発にある。本部はフィリピンのマニラ。ADBは日米が出資率15・65%ずつの最大出資国で、中国は6・46%で3番目だ。
ADBでもそうだが、資金を拠出すれば、多大なメリットがある。インフラ整備事業の工事の受注やあるいは資機材を売り込みに、出資国の企業などが有利になる。AIIB創設に動いた中国の狙いも、そこにあり、オーストラリアや英国が、日本や米国の反対を押し切ってでも参加するのは、そのおこぼれに預かろうという現実的計算があるからだ。
中国の習近平国家主席が、AIIB構想を提唱したのは、13年10月。日本がTPP交渉に正式参加して3カ月後のことである。インフラ資金を必要とするアジア太平洋地域の新興国・途上国の間で歓迎を受けたが、日本と米国は強く反対した。アジアの経済外交の主導権を中国に握られることを恐れたからだ。その警戒感は、麻生太郎財務相のべらんめぇ~調の発言に凝縮されている。
「そちら(AIIB)には審査能力がありますか。審査能力がなくて焦げ付いたとします、その国にはADBも貸してあります、ODA(政府開発援助)も貸してあります、世界銀行も貸してあります、といった時に、そのお金も滞ることになりかねない。その時の返済は、AIIBが後に入ってきたりしなければ返済はきちんとされていたかもしれないと。にもかかわらず、AIIBが入ってきたおかげで返済が滞ることになった時には、返済の猶予とか返済をしないとかというような滞った時の責任は、それは例えば4行ある場合、AIIBの、残りの銀行も含めて4等分します、そんなとぼけた話では駄目ですと。一番最後に入ってきたのだから、その分はそちらでちゃんと責任を持ってくれるのでしょうねとか、1つの例ですよ。返済計画とか、そういったものがきちんとあるはずでしょう。そういったものを見せてくださいと。そういう意味で透明性、トランスペアレンシーというものははっきりあるのでしょうね」
昨年10月24日の定例記者会見での発言だった。アジア太平洋地域の首脳が集まるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会合が北京で開催されたのは、それから16日後の11月10日。その6日後の18日に、習近平主席はオーストラリアを公式訪問する。麻生発言は、そのタイミングをとらえて、オーストラリア政府にAIIBへの参加を考え直すようメッセージを送ったものである。
習近平主席のオーストラリア訪問には、もう一つの目的があった。05年から続けていた自由貿易協定(FTA)が合意に達し、その調印式に臨むことだった。オーストラリアが、AIIBへの参加を決めたら、中国がFTA交渉で牛肉の関税撤廃に応じたことはすでに述べた。

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