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新・農業経営者ルポ

豪雪の中山間地だからの風土の恵みで商品・サービス開発

岩手県西和賀町は岩手県の中でも有名な豪雪の中山間地域である。しかし、そんな場所であればこその風土を生かした農業経営に取り組む高橋明・医久子夫妻。我が国で流通するワラビ粉はほとんどが中国産。やまに農産以外で生産するのは他に一カ所しかない。さらに、風土の恵みを生かした加工品の数々。高橋夫妻の農業経営は中山間地農業の可能性を示している。 文/昆吉則 写真提供/やまに農産株式会社・西和賀FAN
今回の主人公である高橋明は、筆者が農業雑誌の新米編集者時代に取材した思い出の人物である。なぜ、このようなことを書くのかというと、筆者は現在の西和賀町(「旧湯田町)で育った従妹である妻と結婚し、特定郵便局の局長を務めていた岳父の婿となっていたからだ。
父の郵便局は山奥の豪雪地帯であるにもかかわらず、局員や臨時職員を含めて20人以上もいる大きな特定郵便局だった。そして、婿となった筆者には、世襲すればこそ地域の人々の働く場が守られるという人々の期待もかかっていた。盆暮れや連休に帰省するたびに、父だけでなく、局長代理さんや郵便局の人々、あるいは我が家に出入りする多くの人たちから家業を継ぐことを勧められた。しかし、筆者は父の期待を裏切り、郵便局を継がなかった。
そんな故郷への後ろめたさも感じながら、宮城県立農業短大を卒業したばかりの高橋を訪ねたのは70年代の初めごろだった。
高橋は水稲と父が始めたリンドウに取り組む地域期待の農業後継者。そのとき、どんな記事を書いたのかは覚えていないが、その若々しさだけは覚えている。

あえて妻を代表者にする

高橋は2010年に家業を法人化し、高橋家の屋号を社名にしたやまに農産株式会社を設立した。現在の経営概要は、水稲が17 ha、ワラビが3ha、アスパラガスが1ha、カシスが1ha、花壇苗や切り花が約10万本。それ以外にカシスを中心に、コクワ(さるなし)、ハックルベリー、キイチゴ、クリなどのジャム加工やジュース、総菜関係の仕事もしている。ワラビやアスパラガスは観光摘み取り園として客を呼び込み、さらに全国的にもほとんど例のないワラビ粉の生産も行なっている。西和賀の風土の恵みを素材とした商品・サービスの開発で東北の山村であればこその可能性を追求しているのだ。社員は3人、通年パートが2人で季節雇用もある。
やまに農産の社長は妻の高橋医久子であり、明は常務取締役の肩書きだ。経営を法人化した当時、明が農協の常勤理事だったために自ら代表者になるのを避けたということもある。でも、明の思惑は女性である医久子を社長にすることで自社の事業だけでなく、村社会の変革を目指したのではないだろうか。42歳から54歳まで町議を務め、農協の理事も長く務めた明であればこそ。行政の限界を感じ、合併により地域の農協という性格も薄れていく。そのなかで、村社会の男の論理に風穴を開けるのは女性ではないかと考えたのだろう。
かつては明の陰で商売はもとより外向きのことなど何も経験したことがなかった医久子だが、商品開発にかかわる異業種とのコラボレーションなどはもっぱら彼女の担当だという。酒造メーカーにカシスのリキュールを作ることを働きかけたりもしている。

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