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今年は100kgくらいの生産を予定しているが、町内の三軒だけで200kg欲しいと言われている。2、3年後に500kgくらい採れるようになり、1000万円くらいのボリュームにするのが現在の目標だ。本物のワラビ粉で作ったお菓子は西和賀にしかない。そんなやまに農産というより西和賀ならではの特産品にしたいのだ。
農村経営者としての高橋夫妻
桜が咲くのが5月の連休。雪が融けるのが遅く、田に入れるのが5月の10日くらいになる年もあるという西和賀では、春と初夏が一度にやってくる。基盤整備のできた水田は限られており、暗渠の入った場所も少なく、山間の水田は排水も悪い。本誌読者である明は、乾田直播や畑作体系の情報も知ってはいるが、なかなかハードルが高い。17 haといえども、短い春の間に作業をこなすのは大変で、今年、湛水直播の専用機を導入した。
さらに、ワラビやアスパラガスの時期になると、水田の作業をこなしながら観光農園のお客様の相手もしなければならない。しかし、やまに農産は、単なる農業生産者という立場から、西和賀という風土を資源とする生産、加工、さらにエンターテイメントまでを含む新たな農村事業者たろうとしている。
ワラビ粉の仕事もまだ持ち出しの段階だが、他に例のない地域興しにつながる事業になるだろう。
今年62歳になった明は、大学の農学部を出て、現在ある農業団体に勤めている長男に後身を譲る準備を始めようとしている。
高橋明・医久子夫妻は、文字通り筆者が言うところの“農村経営者”だ。自らの風土への強い愛着を持ち、その風土の持つ価値を知り、それを生かした事業を創造できる人。さらに、それをただ己一人の稼ぎとするだけでなく、地域への務めを果たそうとする人である。
西和賀町は旧湯田町と旧沢内村が合併してできた町である。過疎の豪雪地である湯田、沢内との合併を他町村が拒んだのが西和賀町成立の理由なのかもしれない。かつての湯田町だけでも1万3000人近い人口があった。合併した現在の西和賀町の人口は約6000人に過ぎない。さらに、西和賀町の人口は2040年には3000人程度に減少するとまで言われている。でも、それは何もせぬまま時代に流されていけばの話である。
「豪雪」「遅い春」「過疎」「人口減少」「高齢化」等々、西和賀を後ろ向きに語る言葉を並べ立てて何になる。むしろ、5年、10年、30年後の西和賀を思い描く想像力を持とう。西和賀ならではのここにしかない美しい風土と豊かな経営資源を生かす者、そしてその風土に憧れ、そこに暮らすことを望み、そこに事業を興し、発信する者、そこを懐かしむ者もいるのである。高橋明と食事をしているところに、筆者が来ていることを聞きつけた西和賀の若く元気な女性農業者が訪ねてきた。彼女の元気も西和賀の宝だ。
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高橋明 タカハシアキラ
やまに農産(株)
常務取締役
1953年、岩手県湯田町生まれ。73年に宮城県立農業短期大学を卒業後に就農。2010年、妻の医久子を社長にしてやまに農産株式会社を設立。水稲、リンドウ、ユリなどの生産を経て、現在は17haの水稲経営と観光ワラビ園、観光アスパラガス園などを経営する。ワラビ粉の生産も行なっている。
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