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Opinion

情報交換を糧に飛躍。北海道のカルビー契約農家

  • 科学ジャーナリスト 松永和紀
  • 2006年12月01日
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 河尻さんは、契約を結んだ当時の若かった頃を「ふた昔前は普通のKKD農家だった」と振り返る。KKDとは勘と経験と度胸だ。だが、カルビーポテトと契約してKKDは通用しなくなった。加工用ジャガイモは、生で売るものよりもはるかに高い品質を求められる。同社の要求は厳しく、河尻さんも当初の数年間は苦労したという。それまでの「できたものを売る」ことから「消費者が満足するポテトチップスを作るためのものづくり」へと大転換を迫られた。

 その時に支えとなったのが、カルビーポテトの「フィールドマン」だった。同社は、契約農家を技術的に支援し、できたジャガイモを最適な状態で保管してカルビーに提供するため、エキスパートであるフィールドマンを各地域に配置している。

 河尻さんは彼らに教えられ、防除体系や土作り、導入する大型機械まで共に検討し実践し、レベルアップを目指した。一緒に契約農家になった人の中には、脱落した者もいた。しかし、河尻さんはひたむきに取り組んだ。

 フィールドマンから情報を得るだけではない。栽培の中で掴んだ情報は彼らに伝え、翌年の栽培指導に活かしてもらう。もちろん、ほかの農家にも知られてしまう。しかし、自分も新たな情報をフィールドマンから得て役立てる。

 情報とは不思議なものだ。良い情報を発信した者は「実力がある」と認められ、さらに質の高い情報を得られるのだ。情報のキャッチボールを通じて、河尻さんは成長した。「ライバルたちに負けてはいられない」という刺激も受け、さらなる向上を志すようになった。

 面白いことに河尻さんは、最新の科学に基づいた栽培技術を学び実践していくうちに、長年の経験も大事だということにも気づいた。

 「理論的にはわからなくともやってきたことが、『こんな科学的な理由があるのか』と今になって明確になってくる」

 河尻さんは今、40代の若さで帯広市川西農協・加工馬鈴薯生産組合の組合長。約170戸の農家を率いる。カルビー側は「もっと質の高い馬鈴薯をもっとたくさん欲しい」と組合員に要求し続ける。河尻さんは「川西のみんなで一緒に良くなっていきたい」と願う。

 「農家同士は、なかなかコミュニケーションできない。技術を教えたがらない。でも、カルビーのフィールドマンがいてくれると、すんなりとほかの組合員にも伝わる。みんなで頑張っていける」

 ただし、仲良しクラブにはしない。高品質のジャガイモ作りは、やはり難しい。それが、冒頭に紹介した言葉につながっていく。たくさんの情報を集めても、その中から自分の畑の立地条件や土質、天候などに合った方法を選び取らなければならない。最後は、自分の決断にかかっている。

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