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小麦の銅欠乏の症状と対策

小麦の銅欠乏の症状と対策 後編

5 どのような土壌で銅欠乏が発生するのか
銅がないのではなく、溶けないから吸収できない

(1)日高管内の土壌と銅の溶解度 銅欠乏は土壌の全含有率(T-Cu)が低いから発生すると思われているところがある。まず、表1には軽種馬生産地帯で有名な日高管内の土壌調査結果を示した。この地帯は長い間土壌調査に入ることができなかった。なぜなら、調査のために放牧地に穴を掘ってそこに馬が足を踏み入れ、骨折でもしたら何千万円もする馬を台無しにすると思われていたためである。しかし、「良い馬は良い草から」の意識から、ぜひ調査してくれとの依頼で調べに入った。
ロンドン大学大学院のDr. Allowey教授の私信と同封の冊子にもあったように、土壌中の平均銅(Cu)含有率の平均は世界中どこでも20~30mg/kgの範囲に入るとの言葉どおり、ここでもどの土壌の平均値はその範囲に入る(表1)。しかし、可溶性銅(0.1 N HCl-Cu)は土壌によって大きく異なり、黒ボク土が極端に低い。外はいずれも2~5mg/kgであるのに、黒ボク土の平均は0.6mg/kgである。しかも、このなかで一点のみ例外的に高いものがあり、それを除くと平均値は0.4mg/kgとなる。北海道の土壌診断基準では可溶性銅は0.5~8.0mg/kgである。したがって、黒ボク土の可溶性銅(A-Cu)はほとんどが基準値以下となる。
銅欠乏の最初の発見はオランダやデンマークの泥炭地が発端であった。しかし、日高管内の泥炭土は銅欠乏の条件になく、0.1 N HCl-Cuも3.7mg/kgと高い。表1には0.1 N HCl-Cu÷全Cu(A-Cu/T-Cu)も書き入れた。溶解度を見るためである。このA-Cu/T-Cuは黒ボク土では3%以下であるのに、それ以外は9~13%の高い値を示した。
日高管内では小麦の栽培がなく、銅欠乏はわからなかったが、日本国内での最初の銅欠乏は岩手県と北海道でいずれも黒ボク土で発生している。その原因は溶解度の悪さである。これには火山灰土の腐植が溶解度を妨げていることがこれまで明らかにされている。それではなぜ泥炭地で低くならないのか。それには日高の地形が関係している。日高管内は日高山脈が海岸近くまで張り出し、河川は短く、急流で運ばれてきた土砂は低地や湿地帯に流れ込む。これが原因である。

(2)北海道全体の特徴
日高の泥炭土で銅欠乏が見つからないのが北海道全体に通用するのかどうか確認するため、北海道全域で調べた結果を表2に示す。
このデータからは興味のあることがいろいろ出てきた。表2の注にも書いたが、低地土や黒ボク土でも極端に全銅含有率の高いものが出現する。これらのその土壌採取地点を見ると都市下水汚泥(豚糞を含む)の施用が行なわれてきた地帯である。0.1 N HCl-Cuも泥炭を除き、基準値を超える値が散見される。このことは高濃度の銅を含む資材、あるいは有機物肥料を施用していると銅過剰の土壌になることを示唆している。
一方、泥炭土では銅欠乏の発生する条件の土壌が現れる。調査点を見ると日高管内の泥炭地とは異なっていずれも広大な面積を持つ泥炭地で、大河川の川尻近くである。このようなところでは土砂の流入もなく、ヨーロッパの泥炭地と同じ条件で形成された泥炭である。これまで銅欠乏が発現しなかったのは麦作がなされなかったからである。麦作をすれば、筆者が以前に発表した石狩川下流域の泥炭地帯のように小麦の銅欠乏は発生するであろう。ただ、牧草地帯では、先に示したように糖分の低い家畜にも好まれない牧草になるであろう。日高管内で調査しているとき、馬糞などで窒素肥料分が高く、成育の旺盛な牧草を馬は避けて食べているのが印象に残った。これも糖の低いことが原因であったろう。窒素含有率と糖の含有率は反比例するからである。

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