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【新・農業経営者ルポ】
自然のままにボタンを育てる「花職人」
- つくば牡丹園 代表 関浩一
- 第131回 2015年05月27日
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自然を活かした植物園
新緑の季節を迎えたつくば市では、前日からの青空がこの日も広がっていた。開けた田園のなかに、ぽつんと鎮座するこんもりとした森は、まんべんなく太陽の光を浴び、どこかうれしそうだ。そこに向かって歩いて近づいている間にも、時折気持ちのいい春風が吹き抜け、そのたびに木々は喜ぶようにざわめく。
生き生きとして映る森のそばにたどり着き、その脇の道をかすめるように通り過ぎると、趣のある木造の門構えが見えてきた。どうやら目指していたつくば牡丹園に到着したようだ。
門前には駐車場がある。平日の昼間であるものの、すでに結構な台数の乗用車やバスが停まっている。受付の女性によれば、今年は4日前に開園したばかりだという。
春の開園期間は4月中旬から5月下旬と短い。それでも、全国にいるリピーターを中心に毎年この時期を覚えていて、大勢の人たちが訪ねてくる。園主の関によれば、過去には10万人の来場者を迎え入れたこともあったというから驚いてしまった。ちょっとした遊園地の入場者数よりもはるかに多い数字ではないか。そのころは駐車場に車が入り切らず、辺りに大渋滞を引き起こしてしまった。開園しているのはまさに田植えの時期である。関はそのころを振り返りながら、「田植機の通行を妨げて、近隣の農家にご迷惑をかけてしまった」と苦笑した。
筆者がここを訪れたのは今回が初めてだが、それでも入園してみたら、多くの人を引き寄せる理由がすぐにわかった気がした。
ここは、ほかの植物園とは明らかに違う。たいていの植物園は人工的である。周囲の空間とは切り離されて存在し、入園する際には多少なりとも「さあ入るぞ」といった心構えが要求される。園内の道はコンクリートで敷き詰められ、辺りに漂うのは花の香りばかりである。また、咲いている花々は時として自己主張が強すぎ、まるで「どうだ」といわんばかりである。もちろん、花を観賞するためだけに来園したのであれば、それはそれでいいのだろう。
一方のつくば牡丹園は飾り気がない。門をくぐると、ここまで歩いてきたのと同じ土の道が続いている。園内ではほかの草木に混じって花々が咲き、奥には行き道で目にしたと思われる森が見える。花の香りに混ざって土の香りがし、自然のさまざまな色彩のなかに花の色もある。ここは周囲の風景と切り離されているのではなく、そこに溶け込むようにして存在している。そうした自然のなかに、花もまた自然に存在している。花とともに、この土地ならではの空間を楽しむようにできているのだ。
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関浩一 セキヒロイチ
つくば牡丹園
代表
1960年7月、茨城県明野町(現・筑西市)生まれ。都内の私立大学法学部を卒業後、叔父が経営する不動産会社や霊園で事務職や営業職に携わる。98年に脱サラし、つくば牡丹園を開園。現在は園主としての仕事の傍ら、茨城大学大学院に在学している。
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