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05年6月7日付け日本経済新聞の「経済教室」に掲載された「農協の解体的改革を」という一文。小泉政権が取り組もうとした農協改革に、日本経済新聞が援軍を差し送る意味で山下氏に執筆を依頼した。事業分離に触れた部分は、これだ。
「JAに主業農家の声をより反映させるためには、農協連合会には農協の組合員数に応じた議決権を認めているように、農協利用度に応じて一人一票制を見直す、信用事業・共済事業を分離して農業関連事業に純化させる、などが考えられる。過去にも信用・共済事業の分離が提案されたが、制度改正が必要となるので政治過程でJAに反対され実現できなかった」
ここでは、「過去にも信用・共済事業の分離が提案された」という表現になっている。これが、幻の河野構想のことを指すなら、間違い。河野構想は、信用だけが対象だった。農協共済は、その5年前に農林大臣の認可が下りたばかりで、事業分離の対象になるほどの存在感はなかったからだ。
とにかく山下氏の一文に、JA全中は激怒した。最も触れられたくなかった信用・共済事業の分離に触れてきたからだ。そしてお得意の抗議攻勢を新聞社にかける。逐条的に粗探しをした抗議文が新聞社に送られてきた。農協批判を牽制するためだ。
ねっちりと執拗な抗議をしたのは、山下氏が農水省に籍を置く現職官僚だったからだ。身内と思っていた農水官僚に裏切られたという感情が先に出てしまったのかもしれない。
信用事業との兼営禁止
このとき、山下氏は農水省から経産省系の「経済産業研究所」に出向していた。そこのウエブサイトに掲載された反論文から、「幻の河野構想」につながるオリジナル資料を探し出すヒントを得た。
「河野一郎農林大臣による第二次団体再編問題は、いずれも政治活動を経済活動(から)の分離を含んでいた(第二次再編ではさらに信用事業の分離も含む)が、JAの反対によりいずれも実現されなかった」
団体とは農業団体のことである。これには農協も農業委員会も農業共済も含まれる。これらを再編する問題があって、信用事業の分離もその中で議論されていたようだ。そこで第二次団体再編問題を調べることにした。
グーグル検索をかけてみると、トップに出てきたのが、JAグループ山形のサイトに格納されていた「本県農協の営農・生活活動」という古い文書。第二次団体再編問題についての記述は、こうだ。
「翌30年(55年)12月2日には、またまた河野農相が『農協は、経済事業に専念し、指導事業は行うべきではない』『金融制度は2段階にし、単協の信用事業を分離するつもりである』とアドバルーンをあげて、第2次再編問題を惹起した」
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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