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新・農業経営者ルポ

未来を見る目で顧客満足を追い求める世界で唯一の「梅山豚屋」


同じころ、珍しい食材を紹介するテレビ番組で塚原を取り上げたいというオファーがあった。父と塚原の梅山豚にかける思いと奮闘を30分のドラマ仕立てにし、放映されたのがBSE報道の翌週。「その日から電話の鳴りやまない日が続いて、まさにフィーバーでした」と塚原は言う。
この日を皮切りに、梅山豚の引き合いは強まるばかりで、ついに豚肉販売も順調に回り出した。02年にACT21から生産部門を(株)塚原牧場として分離、代表取締役に就任した。
以来、需要が供給を上回る状況が続き、塚原はひとつの決心をした。長らく続けてきた産直から、百貨店、飲食店向けに専念をすることにしたのだ。産直の顧客はつらい時期に支えてくれた貴重な存在だったが、「今のままではブランドとしてメジャーになれない」と考えた。
決意してからは、飼料原料や飼養管理の見直しを行ない、力強い味わいを重視した肉質に切り替えた。その結果、顧客である飲食店で徐々に定番食材として定着。今では継続はもちろん、独立してからも「また梅山豚を使わせてほしい」と心底惚れてくれるシェフが大勢いる。これまでに6回値上げをしたが、惚れた顧客はついてきてくれた。
塚原が育て方でこだわるのは、ゆっくり時間をかけることである。当然ながら養豚産業のトレンドは、飼料効率と施設回転率を高めて収益を得ていくことで、150~180日齢での出荷を目指している。しかし、塚原牧場ではその1.5倍の平均270日齢かけて肥育する。これは長く飼うことで肉自体の味わいが深くなるためだ。だからといって、ただ日数をかけて大きく太らせるだけでは、大味になり脂が付き過ぎる。そこでわざわざ肥育効率の悪い飼料を設計し、絶妙なコントロールをしている。
また、一般的にはストレスをかけないため、群編成は最小限にとどめてケンカを防ぐ。ところが、塚原牧場ではわざと定期的な群編成を行ない、ケンカをさせている。人為的に肥育効率を落とすという作戦だ。効率と逆行することばかりだが、「顧客に続けて買ってもらえるものとは何か」を追求した結果である。塚原は「養豚の教科書通りでは『梅山豚屋』は務まりません」と笑う。
一方で、現在、中国は梅山豚の種の輸出を禁止しており、他の国でも梅山豚の原種はほとんどが確認できないため、新たな梅山豚を迎え入れることは難しい。そうなると当然、種の絶滅も考慮しなくてはならない。しかし、塚原はあえて豚を飼うことにこだわる必要はないと考えている。社員にはいつも「『梅山豚屋』だから俺たちはやっていけるんじゃない。誰もやったこともないことをやり続ける今の経験を活かし、何屋でもやっていけるような実力をつけることが大切だ」と伝えている。

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