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さらに、規模を拡大できない分、価値を高めることに重きを置いている。かつて1万5000円でしか売れなかった豚は、今や1頭13万円を売り上げる(現相場では通常の豚は3万円)。これを20万円に高めるのが目標だ。単に高く売るのではなく、顧客満足度を高めてその対価として収益を上げる。いかに創造力を高め、顧客のニーズを拾い上げるかが、今後ますますの課題だ。
子実トウモロコシの栽培と
飼料化で新たな展開へ
塚原が昨今、注力しているのが、飼料用米、子実トウモロコシの栽培である。全量委託栽培し、買い取れば良いのではと思うが「ごく一部でも、自分たちで栽培するというストーリーが大切」と塚原は言う。今年から飼料用米とトウモロコシの栽培に初挑戦した。自分たちで圃場をつくり、堆肥を入れ、植え付けをする。何もかもが新しいチャレンジで驚くことばかりだ。
これまで塚原牧場では、トウモロコシを一切使わないというスタンスで飼料設計をしてきた。これはトウモロコシが人類にとって重要な食糧で、なおかつ全量輸入に頼っていることに拒否感があったためだ。しかし、国産トウモロコシが順調に調達できるようになれば話は変わる。弊誌が呼びかけたセミナーに参加して刺激を多分に受け、「ぜひ自分でもやってみたい」と短期間でトウモロコシ栽培を決意した。
いざ畑の調達に走り回ってみると、「豚屋が本当に畑をやるのか」と取り合ってもらえない。肉の風味が変わらない子豚期だけ使うにも、年間100t、10haは必要になる。今後どんどん農地は空くと言われているが、まだまだ調達は難しい。そういう意味では、今年のトウモロコシ栽培は周囲に塚原の本気を示すデモンストレーションでもある。
塚原はこのような経営に対する思いや現場の様子をFacebookでこまめに情報公開している。顧客にストーリーを伝えると同時に、自分より若い世代にその道筋をつけるためだ。若いころは他の畜産家と一緒にされたくないという思いが強かったと笑うが、今は「畜産に限らず、若い経営者たちの見本になるようなモデルをつくりたい」と話す。
前職や今の経験を活かした農業ファンドの確立に携わっていくことも、自分にしかできない仕事ではないかと考えている。ベンチャーキャピタルで養われた「未来を見る目」で、塚原は何手も先を読んでいる。その背中を見て刺激を受け、育っていく若き経営者はたくさんいるはずだ。また時間を経てから塚原の未来を聞いてみたい、そう思う取材であった。
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塚原昇 ツカハラノボル
(株)塚原牧場
代表取締役
1966年生まれ。千葉大学法経学部を卒業後、ベンチャーキャピタルに就職。5年間勤めた後、1993年に(有)ACT21(現(株)ACT21)の資本を買い取り、取締役となる。養豚経営の活路を見出すため、1995年から筑波大学大学院環境科学研究科へ進学(修士:環境科学)。その後、筑波大学大学院博士後期課程ビジネス科学研究科中退。2002年(株)ACT21より(株)塚原牧場を分離独立し代表取締役となる。(株)塚原牧場は日本唯一の梅山豚専業農場で、母豚100頭一貫経営。その他グループでエコフィード加工・流通、食肉加工・流通事業なども手掛ける
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