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新・農業経営者ルポ

家族でできるからこその農業

 良いものを作っているだけでは、よほどの幸運がない限り顧客が集まってくることなどない。それほど世間は甘くない。だとしたら、何らかの形で自ら社会やマーケットへの働きかけが必要である。でも、それには営業者の数だけ方法があるはず。そして、営業はまったくしたことがないという佐野こそ、最も優れた営業活動のできている人なのだ。

「営業」あるいは「商売」とは、お客さんに押し売りをしたり騙して売ることであるはずがない。たしかにそんな商売は世の中にたくさんある。でも、そんな営業や販売が同じ場所で同じ顧客に対して続けることができているだろうか。だから彼らは売り逃げをするのだ。そんな商売に永続性があるわけがない。さらに、マーケットのメカニズムというものは、長い目で見れば、“強い者が勝つ”のではなく、“必要とされる者が選ばれて残っていく”ものなのだと思う。

 佐野は、現在の主たる出荷先である量販店に営業をしたわけではない。量販店側が佐野の存在を知ったのだ。そして市場業者を介して彼らが佐野を訪ね、出荷を依頼してきたのだ。卸業者の協力もあったのだろう。

「口下手で営業なんてできません」と佐野自らもいうが、およそ饒舌に自分のイチゴの良さを語るような人ではない。でも、そんな佐野が市内に13台ものイチゴの自動販売機を設置したのだ。今の量販店での扱いや摘み取りイチゴの繁盛も、その結果なのである。営業とは販売先の戸を叩き、セールストークをすることだけではない。むしろ佐野こそ営業の本質を知っているのではないだろうか。

 お客さんの喜ぶ顔を見てみたいという思いが、自動販売機を並べていくことを選ばせた。そして何より最高のイチゴを作ろうとする生産者としての努力と思いが肝心なのだ。今は、顧客の信頼と満足を維持し高めていくために、休みなしの日配で最高の朝取りイチゴを量販店の棚に並べているのである。それが営業というものなのだ。


生産者ならではの自家製イチゴケーキ

 佐野が法人化した時に法人名として付けた名前は「(有)いちごやさん」。イチゴにかけてきた佐野の想いが示されている。

 現在、直売所ではオフシーズンでも、同園のイチゴで作ったジャムやシャーベット、それに数年前からはじめ現在では45aまで広げたブルーベリーのジャムとシャーベット、30aの柿園で栽培した柿や小麦の地粉も売っていた。筆者が訪ねた時にも地元のパン屋さんが菓子パン作りに使うと言って佐野のジャムを買いに来ていた。地元消費をこそ考える佐野は、柿も同地域で古くから栽培されてきた「四ツ溝柿」という品種にこだわっていた。

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