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──そのマークアップを麦で45%削減というのはどういう意味か。
国内の製粉会社などへ安く売れと言っているのと同義。そうなると小麦粉製品の価格が下がる。たとえばコンビニで同価格だったパンとおにぎりなら、10円か20円の差で消費者の手はパンに伸びるようになるというわけだ。回り回ってコメの消費が減退して、その分、減反が拡大することになる。
──そりゃ、大変だ。
マークアップが半分近くになれば、経営所得安定対策(旧:戸別所得補償)のゲタ部分の財源が減る。麦の場合は、国産麦の生産奨励に使われるが、マークアップの45%削減でゲタの財源が減る。その分、「財政当局と協議し必要な支援策、財源を確保したい」ということだ。
──コメはどうなるか。
特別輸入枠(SBS方式)の新設分7万8400tは餌用に回るという方向だから、差損はさらに膨らみ、いずれ餌米についている補助金は下がりはじめることになる。
【園芸作物】晴天の霹靂(へきれき)だった果実産地
──意外だったのは園芸作物の関税撤廃だった。事前の報道で園芸作物が交渉の対象になっているという報道はなかったね。
TPP交渉を闇鍋と称したのは、箸でつまみ上げたら、重要5品目ではなく、思いもよらなかった園芸作物が目の前に出てきたということかな。影響を受けそうなのは、オレンジ、サクランボ、ブドウだ。
──農水省の説明は。
どの作物も被害は軽微。オレンジは、皮をむく分、ミカンと比べて食べにくいので、ミカンとは競合しないと考えているようだ。サクランボも、国産と米国産の棲み分けができている。米国産はダークチェリーなので日本人の嗜好には合わない。ブドウも、国産との品質格差が大きく、勝負にならない。チリ産が入ってくるのは、国産ブドウが出てこない季節だけ。つまり関税撤廃しても国産には影響しないという説明だ。
──楽観論だね。
農水省は、大変だ大変だとは言えないから仕方ないが、当該産地からしたら、晴天の霹靂のようだった。ミカン産地の地方紙、10月17日付け紀伊民報が、こんなコラムを書いていた(文中の「僕」は同紙記者)。
「『環太平洋連携協定(TPP)交渉合意』というニュースを聞いて2年前の秋を思い出した。その日、JAグループ和歌山の幹部と和歌山県で活動する新聞各社の責任者との懇談会があり、席上、僕はTPPへの対応について質問した。そのときの農協幹部の回答は、こんな内容だった。『全中が農協に理解のある自民党議員と連携して対応しているので、安心して任せている』『そもそも、影響が大きいのは酪農家や稲作農家。和歌山県は果樹園芸が中心だから、大ごとにはならないでしょう』」
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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