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【新・農業経営者ルポ】
条件の悪さは農業経営者の妨げにはならない
- (有)熊谷園芸 代表取締役 熊谷市夫
- 第137回 2015年12月02日
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覚悟の家出だった。家に帰るつもりもなかった。熊谷、24歳の夏だった。
そのとき、父親と何を言い争ったのかは思い出せない。しかし、父親との間に確執があった。熊谷はかねて長野県茅野市のリンドウ生産をする農家の様子を伝え、花作りへの夢を語っていた。ところが、「先祖代々400年続けてきたコメ作りをやめるなんて許さない」と否定されていた。そんな日ごろの思いが爆発したのだ。
衝動的に車を走らせた。旅費は弟の給料を黙って持ち出した。これからどこに行くのだろう。リンドウをやるために長野に向かうか、東京に出稼ぎに行こうか。左に行けば東京、右に曲がれば長野。分かれ道になる米沢で一晩、車の中で思い悩んだ。
夜が明けると熊谷は長野に向けて車を走らせていた。
鮭川村は最上郡でも雪深いところとして知られる。なかでも標高180mの山中にある曲川集落は豪雪地だ。
熊谷(65)は自らの子ども時代を振り返る。
物心がついて以来ずっとなぜこんなところ、こんな家に生まれたのだろうと思ってきた。中学を卒業すると、父の下で山村の農民としての夢のない青年時代が始まった。ただひたすら自分の暮らしが嫌だった。
山に囲まれて日照時間は短く、狭い田んぼに使う水も冷たい。コメは6俵も取れればいいほうだった。農家の長男として生まれ、他の生き方を選ぶ術も知らず、1町余りの水田を耕す農民の暮らし。コメ作りといっても収入はせいぜい80万円程度。コメを農協に出しても暮れに精算すると、保険や農業機械、それに生活資金を差し引かれて借金が残るだけという父親の姿を見て暮らした。赤字を埋めるために時間ができれば日雇いの仕事をし、冬は山で炭を焼くか出稼ぎに出ていた。
当時、曲川集落に自生するユリが「みちのく姫ユリ」という名で小規模ながらも産地化しており、父親もそれに取り組んでいた。しかし、あくまでコメ作りが本業であり、花はついでのものに過ぎなかった。
そのとき、父親と何を言い争ったのかは思い出せない。しかし、父親との間に確執があった。熊谷はかねて長野県茅野市のリンドウ生産をする農家の様子を伝え、花作りへの夢を語っていた。ところが、「先祖代々400年続けてきたコメ作りをやめるなんて許さない」と否定されていた。そんな日ごろの思いが爆発したのだ。
衝動的に車を走らせた。旅費は弟の給料を黙って持ち出した。これからどこに行くのだろう。リンドウをやるために長野に向かうか、東京に出稼ぎに行こうか。左に行けば東京、右に曲がれば長野。分かれ道になる米沢で一晩、車の中で思い悩んだ。
夜が明けると熊谷は長野に向けて車を走らせていた。
夢のない青年時代
鮭川村は最上郡でも雪深いところとして知られる。なかでも標高180mの山中にある曲川集落は豪雪地だ。
熊谷(65)は自らの子ども時代を振り返る。
物心がついて以来ずっとなぜこんなところ、こんな家に生まれたのだろうと思ってきた。中学を卒業すると、父の下で山村の農民としての夢のない青年時代が始まった。ただひたすら自分の暮らしが嫌だった。
山に囲まれて日照時間は短く、狭い田んぼに使う水も冷たい。コメは6俵も取れればいいほうだった。農家の長男として生まれ、他の生き方を選ぶ術も知らず、1町余りの水田を耕す農民の暮らし。コメ作りといっても収入はせいぜい80万円程度。コメを農協に出しても暮れに精算すると、保険や農業機械、それに生活資金を差し引かれて借金が残るだけという父親の姿を見て暮らした。赤字を埋めるために時間ができれば日雇いの仕事をし、冬は山で炭を焼くか出稼ぎに出ていた。
当時、曲川集落に自生するユリが「みちのく姫ユリ」という名で小規模ながらも産地化しており、父親もそれに取り組んでいた。しかし、あくまでコメ作りが本業であり、花はついでのものに過ぎなかった。
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熊谷市夫 クマガイイチオ
(有)熊谷園芸
代表取締役
1950年、山形県最上郡鮭川村生まれ。中学卒業後、就農。約1haでの稲作のほか、冬場は薪炭生産や出稼ぎをする暮らしを24歳まで続けていた。父親との喧嘩を機に長野県茅野市のリンドウ農家に修行場所を求めて家出する。紹介状もない飛び込みの研修申し込みはやがて父も認めるところとなり、45日間の研修を経て、その年からリンドウ生産に取り組む。リンドウで全国一の単価と生産量を誇る生産者となるも、89年にバラ生産を開始。その後、技術革新と規模の拡大を行ないつつ現在に至る。
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